キャリア・教育

2020.07.03 08:30

お札を刷ってもハイパーインフレにはならない? そのMMT理解は正しいか

Kiyoshi Hijiki / Getty Images


よくあるこの批判は、そもそもMMTが少しも主張していないことに対して批判しているのであって、なんだかなあと思う部分はあるのだが、冒頭のコメントを寄せてくれた大学生はこの批判を踏まえて、「ハイパーインフレとは何か?」という質問をしてきた。
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お札を刷ると、世の中に出回るお金の量が増えて、お金の価値が下がる。供給だけが増えれば価格が下がるのは前述の物価で説明した通りだ。自国通貨の価値が下がれば、海外から輸入するときには、その輸入したものの値段は上がってしまう。その結果、過度なインフレ、すなわちハイパーインフレが起こってしまう。

日本はデフレ突入目前


とはいえ、少なくともいま日本が気にすべきはその逆のケースなのだ。物価が継続的に下がっていくことをデフレ(デフレーション)という。モノの値段が安くなるなら、私たちにとってはいいことではないかと思う人もいるかもしれないが、それは違う。

モノを生産するときには、人件費や工場の家賃など、多くのコストがかかる。それらのコストを回収し、更には利益を得るために売価を設定する。
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たとえば、景気が悪くなり、家計がお金を使わなくなったらどうなるか。モノを売るために企業は売価、つまり物価を下げるだろう。しかし、生産コストが下がっていないのに売価を下げれば、そのぶん利益が減ってしまう。

企業は利益を出さないと継続できないので、なんとか利益を出そうとする。そうなると、人件費を削ったり、投資を控えたりする。企業に勤める人間は家計の一員である面もあるため、給与が減ったらより買い物を控えるだろう。

そうなると、モノが売れないので企業は更に売価を下げる。すると、今度は、企業は代わりに人件費を……というような具合に、一度デフレに突っ込むと、負の悪循環に陥ることが確認されている。この現象をデフレスパイラルと呼ぶ。

日本はまだデフレ状態にはないが、突入目前である。総務省が発表した4月の消費者物価指数は、価格変動の大きい生鮮食品とエネルギーを除いた総合指数が前年同月比+0.2%となっている。まだマイナスではないので、デフレ状態ではないが、突入目前といった理由は別にある。

消費者物価指数は統計の性格上、消費増税の影響も含まれている。昨年の10月に消費増税が行われたため、2020年の5月と2019年の5月を比べた前年同月比の数値は正確なものではない。

そこで、総務省は、消費税率の引上げと幼児教育・保育の無償化の影響を、品目ごとに機械的に一律に調整した指数として、消費税調整済指数という消費者物価指数も公表している。このデータに基づけば生鮮食品及びエネルギーを除く総合指数は前年同月比+0.2%となっている。

つまり、マイナスの1歩前、デフレに突っ込む直前なのだ。再びデフレ経済になってしまうのかどうか。むしろ私たち日本人はこちらを気にすべきだと筆者は考える。

はじめに「MMTが主張していないことを持ち出して批判している」と書いたが、MMTでは、インフレが加速する兆しが見えたら財政支出を止めたり、増税で対応するとしていることからわかるように、決してインフレにならない、ハイパーインフレが起きないなどとは主張していない。

少なくとも、この20年ほどの日本の経済指標を見る限りでは、急にハイパーインフレを警戒するのは大袈裟すぎるだろう。

学生のうちからしっかりと時系列でデータを確認することと、極力原典にあたって何を主張しているのかを確認する習慣を身に付けた方がよいだろう。

連載:0歳からの「お金の話」
過去記事はこちら>>

文=森永康平

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