もちろん、「やさしい日本語」は万能ではなく、深刻な病気の説明や病名の告知、手術の説明など専門用語を使って医学的な内容を説明する場面では、医療通訳者が欠かせません。それでも、医療通訳者が通訳をしたり、また、翻訳アプリを利用するときには、主語が明確で結論も把握しやすい「やさしい日本語」は、正確に翻訳されやすいというメリットがあるのです。
新型コロナ禍の検査現場で医療者が広く活用できるように──動画教材を無料公開
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大に伴い、2020年4月17日に東京都外国人新型コロナ生活相談センターが開設されました。『医療×「やさしい日本語」研究会』の設立メンバーであるNPO法人CINGAの新居みどりさんが同センターの立ち上げに関わり、外国人の相談事業を中心になって進めています。
武田教授は新居さんから、新型コロナウイルスの検査が必要と保健所に指示された外国人が、いざ検査を受けようとしたら通訳者の同伴が必要といわれてとても困ったと聞きました。その場は、電話を介した通訳を行ったそうです。
『検査で医療者が使う表現は典型的なものばかり。「やさしい日本語」に置き換えることで理解できるケースも多いはず』
──そう考えた武田教授は、新居さんをはじめ『医療×「やさしい日本語」研究会』のメンバーである日本語の専門家やヘルス・コミュニケーションの専門家と協力して、動画教材の作成に着手。順天堂医院の医師や看護師の協力を得て、検査場面で実際に使われる表現をまとめました。完成した動画『医療で用いる「やさしい日本語」─新型コロナウイルス検査編─』は、医療者に広く活用してもらえるように無料で公開しています。
「やさしい日本語」は誰にとっても“やさしい”もの。医療現場でのさらなる普及を目指して。
「やさしい日本語」の表現には、決まった言葉、正解はありません。むしろ「知識」よりも、「相手を理解したいと思ったり、相手の反応を見ながら言い方を工夫したりする“思いやり”が問われる」と武田教授は話します。
また、「やさしい日本語」の恩恵を受けるのは、外国人の方だけではありません。高齢者や障がいのある方、子どもをはじめ、手術後や体調不良で集中力が低下している入院患者さんなどにも助けになります。
「やさしい日本語」は、誰にとっても“やさしい”もの。
武田教授は今後も「医療×『やさしい日本語』研究会」活動や学生教育を通して、医療現場での「やさしい日本語」の普及を進めていきます。
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