──シリアは紛争の影響で、64%の医療機関しか機能していないという報告もあります。人口密度が高く、水道や衛生施設の整っていないキャンプで生活する国内避難民もまだまだ多いですから、このまま感染が広まらないといいですね。3つ目の社会的な影響では、どのようなものがありましたか?
シリア人の友人の中には人生の大きな岐路に関わることに影響があった人もいました。同僚の一人は奨学金を得て、トルコから海外の大学に留学に行く予定だったのですが、出国の直前に便がキャンセルになってしまい延期。また、別の友人は結婚する予定だったのですが、どうなるかわからないようです。シリアでは、婚約するまでに、男性が結婚したい相手の家にしばらく通い、女性とその家族に、結婚を許し認めてもらうという伝統があります。自分も妻と結婚するために、彼女の家に通い詰めました。友人はこれから信頼を得ようとするところだったのですが、通えなくなったために先が見えないようです。コロナ収束後うまくいくといいのですが…
──3月下旬以降、トルコ政府や保健省からの外出禁止令が直前に発出されたり、急に解除されたり、最新情報を得るのが大変でした。私は日本大使館のメールやトルコ人の家族などから情報を得ていましたが、トルコ語がわからないシリア人の方々はどうしていたのでしょうか?
私の場合は職場にトルコ人スタッフもいるので、職場内の連絡網で情報を得ていました。あとはツイッターなどのソーシャルメディアで、トルコ語のわかるシリア人が最新情報をアラビア語に訳してくれているアカウントをフォローしています。ほとんどのシリア人はインターネットへのアクセスはあると思いますが、もしアクセスできない場合は口コミかトルコ語でのモスクからの放送を聞くしかないので、かなり厳しいです。
──経済的な影響とも関わるのですが、この期間にトルコ政府からシリア難民に対する支援は何かありましたか?
コロナに特化した支援は受けていません。シリア人でもトルコでの市民権を獲得していれば、トルコ人と同じように一般の店での販売が禁止されたマスクの無償配布や、外出禁止となった高齢者向けの買い物代行サービス、雇用保証や経済援助、ローン上限度の引き上げなど政策の対象になったようです。私はトルコでの労働許可は持っていますが、市民権は申請後1年半経った今もまだ待っている状態なので、対象外でした。
──アハメッドさんは、合法な労働許可を所持し、自宅勤務が可能な職に就いているという点で、シリア難民の中でも経済的な影響は少なかった方なんですね。
そう思います。私が働いているNGOはトルコにいるシリア難民を支援していますが、彼らの生活は逼迫しています。新型コロナウイルスの感染がトルコで確認されてすぐの頃は、NGOや国連も今後どのように支援を続けていくべきかの議論になり、受益者との接触を避けるため、短期間ですが支援が滞っていました。シリア難民の自宅を訪問して行なっていたリハビリ、カウンセリングセッションなどは、現在は形を変えオンラインや電話で再開しています。コロナの影響を受けて、必要な物資の配布なども各世帯に合わせて行なっています。