ビジネス

2020.06.19

現役弁護士が「AI契約書レビュー」で挑む法務改革 開始1年で300社以上が導入

(左)LegalForce代表取締役CEOの角田 望、(右)代表取締役 共同創業者の小笠原匡隆


法曹界のエリートが、キャリアを捨て起業した理由


──LegalForceの創業者、角田望氏と小笠原匡隆氏は、法曹界のエリートといっても過言ではないキャリアの持ち主だ。角田氏は京都大学を卒業したのち、司法試験の論文式試験に1位で合格。小笠原氏は東京大学法科大学院の特別成績優秀者に選ばれた。両氏は同じタイミングで、業界で最大手と呼ばれる森・濱田松本法律事務所に入所。企業法務を担当する。業務の中で芽生えた課題感が、LegalForceの礎になっていると、角田氏は語る。

角田:企業法務の主な仕事は契約書のレビューですが、この仕事は大きく2つのプロセスに分けることができます。1つは与えられた書類をチェックし、潜在するリスクや抜け漏れ事項を指摘するプロセス。もう1つは、発見したリスクについて相手企業と交渉したり、修正をするプロセスです。

企業法務にとって、前者の書類チェックが大きなペインとなっていました。何ページもの契約書に目を通して不備を見つけることは膨大な時間が掛かるうえに、人間の仕事ですからコンディションによってミスが生じることもあります。こうした照合作業はAIの得意分野でもあるのにも関わらず、テクノロジーが導入される兆しがありませんでした。

誰かがこの文化を変えなければならない。企業法務にやりがいを感じながらも、常に問題意識を持っていました。



──小笠原氏いわく、紙文化をはじめとした古い慣習に疑問を感じる若手弁護士は多かったという。しかし、日本でリーガルテックの浸透が遅れた背景には、弁護士特有の稼ぐ「仕組み」が起因していた。

小笠原:企業法務に携わる弁護士の報酬の多くはタイムチャージ制と呼ばれ、案件単体でフィーが決まるのではなく、稼働時間に応じて報酬が決まります。そのため、労働集約モデルでありながら、業務効率を高めようとするインセンティブがどうしても働きづらいという問題がありました。

現在の働き方で十分な収入がもらえるのであれば、制度自体が変化するようなうねりは起きにくいですよね。

──そんな業界に身を置いていながら、両氏が起業へと舵を切ったきっかけが、欧米でのリーガルテックの勃興だ。2016年、IBMが開発した人工知能、「ワトソン」が法律事務所で「弁護士」として就職したニュースが飛び込んできたのだ。

角田:ワトソンのニュース以降、リーガルテックの情報を集めるようになり、欧米では既に数百社ものリーガルテックベンチャーが存在し、業務効率化を推し進めていることを知りました。一方、日本の弁護士や法務の現場にはまだ先進的なテクノロジーは普及しておらず、私自身も書類と睨み合う職人のような働き方を続けていたんです。

このまま職人芸のような働き方を続けていては、いつかAIに業務を脅かされてしまう日が来るかもしれない。AIに代替されるのではなく、AIを用いることで仕事の守備範囲を広げる方向へシフトしていくべきだと感じたんです。業界の前進に繋げたいという思いから、同じ関心を持っていた小笠原とともに起業しました。

全ての契約リスクを「制御可能」にする




──2020年5月、LegalForceは企業ミッションをアップデートした。新しいミッションは「全ての契約リスクを制御可能にする」というもの。テクノロジーと弁護士の知見を掛け合わせ、企業法務における業務の品質向上と効率化を実現するソフトウェアの開発・提供を行っていく。

角田:私たちのクライアントの多くは、弁護士や大企業をはじめとする企業法務を担当する方々。彼らはクライアントや会社を守るために、一語一句に目を光らせる「法務のプロ」です。彼らの業務の品質を上げるためには、「完璧」なソフトウェアを作らなければ、利用してもらえることはありません。

私たち自身もプロフェッショナリズムを持ち、彼らを驚かせるようなプロダクトを生み出していきたいと思っています。

小笠原:実は、現在の「LegalForce」にたどり着くまでに、3度のピボットをしています。その度にプロダクトを全て捨て、ゼロから事業を立ち上げなければならない挫折も経験してきました。しかし、プロダクトが軌道に乗り始め、業界全体が前進し始めていることを感じ始めています。

これからやっていきたいのは、新たな法務の在り方を作り出すこと。契約書業務の品質を、職人芸ではなく仕組みで担保する「契約工学」という視点を提案したい。法務に関わる方々が仕事の質とスピードを上げながら、より多くのことに挑戦していくためにAIを採用する未来を作っていきたいですね。

文=半蔵門太郎 写真=小田駿一

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