木内登英の経済の潮流──「これから本格化する国内雇用情勢の未曽有の悪化」

木内登英


深刻化する「隠れ休業者」問題


ところで今、政府が最も手を差し伸べる必要があるのは、実はこうした休業者や失業者ではありません。企業との雇用契約は維持されながらも休業者とはなっていない、いわば「隠れ休業者」です。「隠れ休業者」は自宅待機を求められて休業状態にありますが、企業からの休業手当も失業手当もどちらも受け取れないのです。

労働基準法は、景気悪化、経営悪化など会社側の都合で従業員を休業させる場合には、平均給与の6割以上を支払うことを企業に義務付けていますが、実際には、休業手当が支払われていない「隠れ休業者」が相当数存在します。

経営環境が厳しい中、休業手当を支払う余裕がない、あるいは支払うと企業が資金繰りに行き詰って倒産してしまうリスクがある、といったケースもあるのでしょう。

仕事に向かう企業戦士たち

雇用調整助成金制度の問題


こうした「隠れ休業者」を減らすことが期待されてきたのが、企業の休業手当の相当部分を国が補助する、雇用調整助成金制度です。ところが、この常設の制度は、危機時には十分に機能してこなかったように思います。同制度への企業の申請は思うように増えていないのです。」

申請を阻んでいる要因として挙げられるのは、第1に、大量の記入書類、証明書類の提出を求められるという、企業にとっての大きな事務負担です。第2に、厚労省は申請から支給までに最短2週間を目指すとしながらも、実際には1~2か月かかるケースが多いという点です。第3に、企業が休業手当を支給した後に初めて助成金を受け取ることができる、いわゆる「後払い方式」であることです。厳しい資金繰りに直面する企業は、申請する余裕はないでしょう。

手続きの簡素化などを受けて、足もとで申請件数はようやく増え始めているようですが、救えているのは「隠れ休業者」のうち、まだごく一部にとどまっているでしょう。

新たな休業者支援制度は「隠れ休業者」を救えるか


そこで、企業が申請するのではなく、事実上休業状態にある従業員が自ら申請して、失業手当てに相当する手当てを受け取れるようにする新しい制度が、政府の2次補正予算案に盛り込まれました。同制度は東日本大震災の際にも適用され、「みなし失業制度」とも呼ばれます。

事実上の休業者は企業から休業証明を受け取り、自らオンラインなどでハローワークに申請することになります。申請から1週間程度で支給できる可能性があるといいます。

この新たな制度によって、極めて厳しい生活環境に置かれている「隠れ休業者」が、早急に救われることを強く期待したいと思います。

(この記事はNRIジャーナルからの転載です)

文=木内登英(NRI)

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