日本と米国の雇用情勢の違いにレイオフ(一時帰休)制度
米国労働省が6月5日に発表した5月分雇用統計は、事前の悪化予想に反して改善し、コロナショックで急激に悪化した米国経済が、とりあえず底打ちしつつあることを裏付けました。非農業部門雇用者数は前月比250万9000人増加し、失業率は1948年の統計開始以来で最高値を記録した4月の14.7%から、13.3%へと低下しました。事前には、さらなる雇用者数の減少と失業率の上昇が予想されていました。
ところで日本では、米国のように雇用情勢が急激な悪化から一気に改善するというようなことは考えられません。米国で就業者と失業者との間の入れ替えが急速に起こるのは、レイオフ(一時帰休)制度があるためです。
自動車などの製造業には、経営環境が改善した際に再雇用することを前提にした解雇の慣例があります。レイオフされた労働者は、失業保険を申請して失業者となりますが、職探しをすることなく、同じ企業に再雇用されることを待つケースが多いでしょう。
他方、企業にとっては、経営状況が悪化する際に従業員を一時的に失業者とし、失業手当という公的支援を受けてもらいます。そして経営状況が改善すれば、新たに求人活動をすることなく、レイオフされた人を再雇用するのです。ここに、米国で労働市場がダイナミックに変化する理由の一つがあるのでしょう。
日本では休業制度に注目
ところが日本では、再雇用を前提にして解雇された人には、原則、失業手当を受給する資格が与えられません。あくまでも職を完全に失い、なおかつ働く意志があって求職活動をしている人が、失業手当を受給することができ、失業者となるのです。
米国でのレイオフ制度に近いのは、日本では休業制度と言えるのかもしれません。自宅待機を命じられ、企業から休業手当を受け取る休業者の数は4月に597万人と、前月から350万人近くも急増しました。日本では、雇用情勢の変化を探る際には、この休業者数の動きに注目しておくことが有効なのです。
日本の失業率のピークは来年前半か
こうした会社都合の休業者は、失業予備軍でもあります。会社が休業手当を払い続ける余裕がなくなる、あるいは会社が倒産や廃業となれば、休業者らは失業者となってしまいます。経済危機の下でも企業は何とか経営を維持しようとしますが、厳しい経済情勢が続けば、いよいよ持ちこたえることができなくなり、倒産あるいは廃業に追いこまれます。それはしばしば、経済情勢が底打ちしてから時間差を持って生じるものです。
このように、日本では雇用情勢の変化は、景気情勢の変化に遅れて生じやすいのです。仮に日本経済が現在、最悪期を過ぎて底打ちしつつある状況だとしても、急回復するようなことがない限り、雇用情勢の悪化傾向はなお続き、失業率がピークを付けるのは来年前半になると思われます。その時の失業率は、6%程度に達することも予想されます。