カリフォルニア州ニューポートビーチにあるホーグ病院(Hoag Hospital)は、臨床試験を別にすれば、米国でいち早くVR技術を治療に採り入れた病院のひとつだ。
医療の現場でVRをどう活用するのか。その探求の最前線に立っているのが、ホーグ病院ピックアップ・ファミリー神経科学研究所(Pickup Family Neurosciences Institute)の頭蓋底・脳下垂体腫瘍プログラムの責任者を務める神経外科医、ロバート・ルイス(Robert Louis)医師だ。ルイスは5年ほど前に、脳手術の計画や予行練習に「サージカル・シアター(Surgical Theatre)」を使い始めた。
VRに対するルイスの関心は、手術室だけにとどまらなかった。ほかの形で医療現場にVR技術を採り入れることにも、ルイスは情熱を傾けている。
ルイスによれば、VRによって急性や慢性の痛みを効果的に治療し、オピオイド鎮痛薬の使用量を減らせることは、綿密な調査をもとにおこなわれた無数の研究で明らかになっているという。
ルイスはひとつの例として、2017年にシダーズ・サイナイ医療センター(Cedars-Sinai Medical Center)でおこなわれた無作為化試験を挙げた。この試験では、VRを使って患者を治療したところ、0~10のスケールで定義した痛みが平均で3ポイント軽減したと報告されている。
「7か8のレベルの痛みを看護師に訴えた場合、フェンタニルかモルヒネ(いずれもオピオイド系の鎮痛剤)を投与される可能性が高い。だが、3か4の痛みなら、タイレノール(一般に使用される解熱鎮痛剤)で済む」とルイスは説明する。
非侵襲的でリスクのない方法によって痛みを軽減できれば、オピオイド依存症になる可能性を回避するのに役立つはずだ。
「研究は無数にあるが、患者の治療法としてVRを本格的に活用している病院は、ほかにない」とルイスは言う。