「データは誰のもの?」は成り立たない。個人の権利と公共性の両立へ

世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター ヘルスケア・データ政策プロジェクト長の藤田卓仙氏


──コンタクトトレーシングのあり方については、APIを開発したグーグルとアップルという民間企業の役割が決定的でした。

多くの国々でグーグルとアップルが公開したAPIが利用されており、データの取り扱いの仕様について、グーグルとアップルが国よりも強い主導権を握っている。アプリは分散型で保健当局が管理し、14日でデータを削除するなどといった仕様は彼らのAPIを使う限りは変更できない。

もともとのAPPAの考え方では、公共の目的のためにもう少し個人情報にアクセスできてもいいのではないかと考えていた。しかしこのアプリでは、同意が必要で匿名化された情報にしかアクセスできない。

GDPRはプラットフォーマーに制約をかける方向性が強いが、事実上データを保持するプラットフォーマーの意向を全く無視して議論をすることはできない。APPAでは、プラットフォーマーもステークホルダーの一員として、連携しながらデータ活用を進めるべきだと考える。具体的な適用・運用の方法については、今後さらに精緻化をしていく。 

──APPAの考えに基づいて、今後どのような新型コロナ対策ができるのでしょうか。

本当に大切な目的は何で、どこまでやるのか。まずは国民全体の合意の形成が不可欠だ。新型コロナ対策では専門的な話も多いので、全員が全部を理解して議論をすることは不可能かもしれないが、なるべく国民が理解できるように情報提供し、透明性を高める努力は必要だろう。

今後の展開として、世界経済フォーラムは国際間の経済活動再開を見据えて、入国許可の基準について議論を始めている。

例えば、ドイツで検討が始まっている「免疫パスポート」。抗原抗体検査を行いって免疫がある人や、PCR検査で陰性の人の出入国を許可したりする仕組みだ。また、韓国のように位置情報を使ったコンタクトトレーシングアプリのインストールを入国時に義務付けとし、発熱などの症状が出れば保健当局がすぐに特定してクラスター対策ができる取り組みもある。

そのような多様な「アプリ群」を使いながら、国境往来を再開するための国際的な基準の検討が必要になっている。感染症対策としての実効性を保ちつつ、個人情報の保護や企業の立場も考えた、国際的な同意をどうのように形成していくのか。APPAの考え方が鍵になるのではないか。

※第1回は『いよいよ日本でも開始、接触「確認」アプリは本当に有効か?』


藤田卓仙(ふじた・たかのり) ◎世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター ヘルスケア・データ政策プロジェクト長、慶應義塾大学医学部特任講師。2006年東京大学医学部卒業、2011年東京大学大学院法学政治学研究科修了。 専門は医事法、医療政策、特に医療情報の取り扱いに関する法制度。主な著書『認知症と情報』(勁草書房)。

文=成相通子

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