一方、過度の賃金格差はチームワークの一体感をそぐ。地位によって、オフィスの使用エリアを分けたり隔離したりすることも、情報の格差を生み、社員のやる気を失わせる。「格差の是正」が労働意欲を高めるのだ。
社員教育や研修への投資もマストである。スキルアップだけでなく、雇用主へのコミットメントが増す。「社員を大切にしているというメッセージになるからだ」(フェファー教授)。投資リターンは、「在社年数の伸びと忠誠心の高まり」という形で返ってくる。
米企業の多くがコスト削減に走るなか、例外的な企業もあると、同教授は言う。ノースカロライナ州のソフトウエア会社SASインスティチュートや、コロラド州の大手透析会社ダビータだ。どちらも、新人やベテラン、地位などを問わず、全レベルの社員に大規模な研修が行われている。
同教授は、『人材を活かす企業』のなかで、一部の改革のみでお茶を濁したり、従来の経営に回帰したりする企業が多いと指摘した。そのため、組織力重視の経営が普及しないという。出版から17年。米国企業は変わったのか―。
フェファー教授の答えは「ノー」だ。いまだに人材や組織力を重視する必要性に気づかない経営陣が多いため、コーポレート・アメリカ(米産業界)は依然として「混乱状態にある」という。一方、グローバル化が進み、経営環境が激変するなか、今も社員が「競争優位確保のための大切な源泉」であることに変わりはないと、同教授は断言する。「長期的に成功している企業は、人材の重要性を認識し、社員の面倒を見る会社だ」 だが実際は、現場との意思疎通が悪く、社員を育てようとしないトップが多い。その結果、何が起こるか―。労働意欲の低下だ。
米世論調査会社ギャラップ(13年10月発表)によると、世界の勤労者のうち、仕事に「熱心な」人は13%にすぎない。自発的努力を怠る、仕事に「熱心でない」人は63%。職場に不満があり、仕事に「まったく熱心でない」人は24%に上る。労働意欲に欠ける社員は非生産的で、周りに悪影響を及ぼしかねない。
国別に見ると、米国とカナダの勤労者は、熱心な人が29%、熱心でない人が54%、まったく熱心でない人が18%だ。米国のみを対象にした3月9日発表の調査では、熱心な人が32.9%に増えている。だが、熱心でない人は50.3%と依然として半数を超え、まったく熱心でない人も16.8%いる。
世界屈指の勤労倫理の高さと勤勉さで知られる日本はどうか。意外にも、仕事に熱心な人は、わずか7%。熱心でない人が69%、まったく熱心でない人が24%という結果が出ている。
米国と比較にならないほど雇用の保証が守られているにもかかわらず、労働者の満足度とやる気がこれほど低いのはなぜなのか。日本企業のトップは、今一度真剣に考えてみる必要があるだろう。