しかし、実際の銀行業務を考えた場合にはどうだろうか。もし先に花子がお金を借りに来たとしても、花子が融資をしてもちゃんと返済をしてくれるという信用状態にあれば、すぐに銀行は花子の預金口座にお金を振り込むだろう。何も太郎の預け入れを待つ必要はない。
このとき銀行は、コンピューター上で花子の口座に入金記録を打つだけでよい。これがまさにバーナンキが言った「コンピューターを使って操作しただけ」ということになる。
税金の支払いに使えることで
このようにコンピューター上でお金の移動ができる状況にあると、「そもそもお金ってなんなんだろう?」という疑問が湧いてくる。
日本では消費増税のタイミングでキャッシュレス決済推進策が打ち出され、その後、新型コロナウイルス感染拡大の影響で接触を回避するためにキャッシュレスでの支払いが普及したことで、少しずつ現金決済をしない人が増えつつある。
そうなると、基本的にはコンピューター上でのやり取りになるので、お金に対する概念があやふやになる。
たとえば、1万円札は原価が20円程度の紙だが、なぜそれに1万円の価値を見出せるのか。昔のように同額の金(ゴールド)と引き換えてくれるわけでもない。
価値を見出している理由の1つは、日本円というお金を税金の支払いに使えるということだろう。私たち日本人が生活する日本において、税金は日本円を使って支払うことができる。つまり、日本円は日本政府が額面で受け取ってくれる。だから日本人は日本円に対して信用をしているのだ。
このように考えると、税金の存在理由が財源ではなく、ただの紙をお金として流通させるためにあると考えることができるだろう。
このようなお金の考え方は「MMT(現代貨幣理論)」として、冒頭で紹介した記事のなかにも登場している。拙著『MMTが日本を救う』でも詳細に解説しているが、これまで学生たちが教えられてきた経済学とは違う考え方である。
正確には「貨幣理論」というぐらいなので、経済学ではないのかもしれない。筆者も大学で経済学を専攻していたが、当時習ったこととはまったく異なるものだ。
MMTに興味を持ってネットでいろいろ調べると、この理論に対する反論を多く目にすることになるだろう。実際にMMTが日本で知名度を得る過程でも、多くの有識者や著名人がこの理論に対して否定的な発言もしている。
学生の読者には何が正しい、間違っているとすぐに結論を出そうとするのではなく、いま大学で習っている経済学もMMTも1度学んでみて、さまざまな視点を持つことをお勧めしたい。不確実性が高まっている世の中においては、柔軟な発想が求められるからだ。
連載:0歳からの「お金の話」
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