有意な相関は認められない
次に、より意外な研究結果を紹介したい。シカゴ大学のタマラ・カネツカ(Tamara Konetzka)が行った研究は、高齢者介護施設のおもな特徴と、新型コロナウイルス感染数や死亡数のあいだに相関があるのかという点に着目している。
研究の結果、高齢者介護施設の質(メディケアの高齢者介護施設比較ツールによる評価)と、新型コロナウイルスによる感染者や死亡者とのあいだには「有意な相関は存在しない」ことが判明した。営利目的の施設と、非営利の施設のあいだにも、違いはほとんど見られなかった。「メディケイドを受給している施設入居者の割合」と感染者数のあいだには、「わずかな相関」が認められたという。
イリノイ州など一部の州では、メディケアによる評価の高い施設のほうが、新型コロナウイルスの感染者が発生しにくかったが、その差はごくわずかだ。ニュージャージー州などのように、メディケアによる評価の高い施設のほうが感染者の発生傾向が若干高いという州もあった。
高齢者介護施設の質に着目したカネツカの研究は、さまざまな疑問を生む。この結果は、新型コロナウイルスの問題なのか、あるいは、「高齢者介護施設の比較」の問題なのか。メディケアが高齢者介護施設を評価する際の方法に問題があるのか。入居者のウェルビーイングや安全に影響を与える重要な要素を見落としているのか。
私は6年前にブログで、メディケアが実施している高齢者介護施設の評価について疑問を提起したが、問題の多くは依然として残ったままだ。
人種で大きく差が出る
しかし、カネツカは「強い一貫性のある相関」をひとつ見つけている。白人入居者の割合が多い高齢者介護施設は、非白人入居者が多い施設と比べて、新型コロナウイルスの感染者や死亡者が出る可能性がずっと低かったのだ。その差は歴然としている。非白人入居者が最も多い施設では、新型コロナウイルスの感染者や死亡者が出る可能性が2倍だった。
ひとつの可能性としては、カネツカが確認した事象は、モルやグラボウスキが見出したものと同じだったものだったのかもしれない。新型コロナウイルスの流行初期に多くの人が感染した大都市では、黒人とヒスパニック系住民の感染者と死亡者が並外れて多かった。
また、カネツカが指摘しているように、人は、自分と同じ人種が多く住む地域にある高齢者介護施設に入居する傾向がある。そして、施設職員も居住するその地域が、新型コロナウイルスの流行地であったのかもしれない。これらを総合すると、新型コロナウイルスの感染が発生しやすい高齢者介護施設とは、アフリカ系米国人が多く住み、ウイルス感染者が多数いる地域にある施設ということになる。
新型コロナウイルスと高齢者介護施設の関係性については、まだ知られていないことがたくさんある。また、ウイルスがニューヨークなどの大都市から他地域へと広がるにつれ、データが変化する可能性もある。しかし我々は、高齢者介護施設に多くの死者が出るところと、出ないところがあるのは何故なのかを解明する試みに関して、初期における重要な手がかりを得始めている。