経済・社会

2020.06.11 07:30

温暖化では即死しない、が盲点。コロナ感染のグレタさんも訴える「気候正義」


そもそも、なぜスウェーデンは環境先進国なのか?


久山:グレタさんが登場する以前から、スウェーデンは環境先進国として知られていましたが、そこにはどんな土壌があったのでしょうか。日本もそんなふうになれるのでしょうか。

高見:私はスウェーデン在住40年になりますが、その間スウェーデン人が一貫して変わらない点のひとつに、自然と野生動物への配慮の気持ちがあります。それが国民の共通の価値観に存在し、その上に学校での環境教育やメディア・NGOによる環境啓発があって、環境先進国へと成長したのだと思います。また、60年以上も歴史のある幼児の自然環境教育が与えた国民への影響も非常に大きいと思います。

久山:どういうものでしょうか。

高見:スウェーデンには100年以上も前から、Friluftsfrämjandet(野外生活推進協会)というボランテイア団体があって、国民の健康と喜びのために、大人や子どもが野外で過ごすプログラムを提供しているんです。

その団体が1957年に提案したのが、5~6歳児が自然の中で遊ぶプログラム「森のムッレ教室」でした。スウェーデンでは80年代に、オゾン層破壊や環境汚染、野生動物の絶滅といった問題が議論され、色々な自然保護と環境保全対策が始まっていました。一方、日本では、まだ環境アセスメントもなく、リゾート開発のためにどんどん自然が破壊されていましたね。どうしてこんなに差があるのかと考えていたときに、わたしが出会ったのがこの「森のムッレ教室」です。

リーダー養成講座を受けたリーダーが、子どもたちを身近な自然に案内して、五感を使って遊び、自然の素晴らしさや不思議さを体験してもらいます。子どもは遊びを通して、自然の循環や、動物と植物がつながっていること、つまりエコロジーを学ぶのです。「自然感覚」と呼んでいますが、人間も動物と同じで、クリーンな空気、水、土に依存していることを自然体験を通して学びます。自然と自分の間に関係を築き、自然を好きになってもらうようにするのです。好きなものは、誰でも大切にします。活動の創設者は、「自然を好きになった子どもは、将来、自然環境を守ってくれるはずだ」というビジョンを持っていたのです。

200万人の子どもが参加、「森のムッレ教室」


高見:スウェーデンでは、この60年間で200万人の子どもが森のムッレ教室に参加して、自然に出かけ、自然に親しむと同時に、動植物に配慮をすることを学んできました。自分が自然の一部であり、自然を破壊することは自分を破壊することになるということを感覚で知った人たちが、いま、国の政治家であったり、企業のトップにいて、決定権をもっているのです。その仕組みが、環境先進国スウェーデンを支えているのだと思います。

久山:なるほど。何世代もかけて培ってきた自然への愛が、今のスウェーデンの政策や企業の在り方の土台になっているのですね。彼らが自然に触れ合わずに育っていたら、今のようなスウェーデンにはならなかった。

高見:スウェーデンの有名作家シャスティン・エークマンが、「自然がそこにあることも知らなければ、なくなっても寂しく思うことはないし、それを保護することに対して興味を持つこともない」と言っていました。緊急に自然の多様性を守らなければいけない今の時代に、なぜそうする必要があるのかを理解し、行動する世代を育てるのが大きな課題です。

久山:高見さんは、「森のムッレ」のリーダーを養成するボランテイア団体を日本でも立ち上げられたのですよね。


「森のムッレは、子どもたちに自然を大切にすることを教えます」(イラスト:ヨスタ・フロム森のムッレ財団)

高見:1992年に、有志の方々と一緒に日本野外生活推進協会を立ち上げました。現在全国に約50のネットワーク団体があり、森のムッレ教室を保育園やこども園で、あるいは子育て団体、環境団体の活動の一環として取り入れてもらっています。約500人のリーダーが、年間約1万人の子どもたちを自然に案内しています。スウェーデンと日本以外にも、フィンランド、ドイツ、ノルウェー、ロシア、ラトビア、英国、ウエールズ、スコットランドでも活動が行われているんですよ。わたしも各国を訪れてみて、どこの国の子どもも同じで、自然の中に出かけるのが大好きだとわかりました。

幼少期に自然環境の中で過ごす機会のあった人は、大人になってから環境への意識が高くなるのを示した研究もいくつかあります。アメリカのある研究では、自然環境での遊びといった「野生的な生活」経験を持つ人々は、野外生活ができる環境を保護すること、またゴミ分別など環境に配慮した行動を積極的に取るということがわかっています。

環境問題が深刻化する中、世界中でもっと子どもが自然に触れる機会を得られるのを願っています。それは自然のため、そして、子どもたちの将来のために必要なことなんです。

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「自然の中で生き物を発見し、感動し、調べます」(写真:ヨスタ・フロム森のムッレ財団)
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文=高見幸子・久山葉子 構成=石井節子

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