ベーコンの切れ端で作ったジャム、いらなくなった魚を使ったジャーキー、醸造に用いた豆の残りかすを材料にしたグラノーラバーやパフスナック。こうした、食品を作る際に出る副産物やくずを加工して作った新しい食品は「アップサイクル」した食品と呼ばれるが、これまで標準的な定義はなかった。
一方、食品廃棄物に取り組むスタートアップが増え、消費者の間でもこうした食品に関心が高まっている。そうしたなか、半年前に米企業を中心に約70社が参加して設立された「アップサイクル食品協会」(本部コロラド州デンバー)は、定義を明確にする必要があると判断し、専門家らのプロジェクトチームを設立。チームは5月、アップサイクル食品をこう定義した。
「本来は人間の食用にされなかった原材料を用い、検証可能なサプライチェーンで調達・生産され、環境に良い影響をもたらす食品」
協会のターナー・ワイアット最高経営責任者(CEO)の説明によると、アップサイクルされた原材料は製品に付加価値を与えるとともに、食品廃棄物の削減に役立つことが求められる。たとえば、ホットドッグやベービーキャロットなどはこの定義に当てはまらない。
ワイアットは、実際には食品廃棄物削減に寄与しない製品を大手企業が新しいイメージで売り込む「エコ詐欺」は見たくないと話す。「アップサイクルされた原材料を大手の食品会社の製品に採り入れてもらい、そうした原材料がすべて使われ、確実に人々に食してもらうようにすることが最大の目的」だという。
ワイアットは、アップサイクルという言葉を「フードシステムの中で誠実な言葉として使われるようにしたい」とも語っている。
100兆円にのぼる経済損失
食品廃棄物は世界的に問題になっており、国連食糧農業機関(FAO)によると、食品の廃棄やロスによる世界経済の損失額は年間9400億ドル(約101兆円)を超えるとされる。食品のアップサイクルの支持者は、この取り組みは食品の廃棄やロスから発生している温室効果ガス700億トンあまりの削減に役立つほか、雇用の創出や革新的な製品に開発にもつながると訴えている。
アップサイクルに弾みがついているのは間違いない。調査会社フューチャー・マーケット・インサイトの昨年のリポートによると、アップサイクル食品産業の規模は460億ドル(約5兆円)超と推定され、年5%のペースで成長すると予測されている。
コンサルティング会社マトソンの消費者調査では、過半数がアップサイクル食品をもっと買いたいと答えている。また、ドレクセル大学が2017年に実施した調査によると、消費者はアップサイクル食品には環境面で有機食品と同じような利点があるとみている。
プロジェクトチームのメンバーを務めたハーバード大学ロースクールのエミリー・ブロード・リーブ教授(臨床法学)は、アップサイクル食品の普及はフードサプライチェーンの効率性や復元力(レジリエンス)を高めるのに有効だとしたうえで、今回の定義は「企業や消費者らが共通の意味と用法に従う、しっかりした出発点」になると述べている。
協会は新しい定義を踏み台として、年内にアップサイクル製品の認証プログラムを策定する予定だ。