新型コロナ禍で選手のメンタルに影 日本サッカー界でいま起きていること 

Halfpoint Images /Getty Images

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新型コロナウイルス感染防止により、世界中でサッカーの試合が中止されていたが、5月に入ると韓国やドイツでついにリーグ戦が再開された。しかし日本のJリーグは依然として、2月下旬からすべての公式戦を中断させたままだ。

サッカーができない日々が選手たちのメンタルに暗い影を落とし、うつ病のような症状を引き起こしかねないとするヨーロッパ発の警鐘を、Jリーグはどのように受け止め、選手たちはいま何を感じているのだろうか。


新型コロナウイルスが猛威を振るいはじめると、サッカーを取り巻く光景は世界中で一変した。週末には必ず試合がある。当然と思われていたこのサイクルが、突然失われた。世界のあちこちでロックダウン(都市封鎖)が実施されると、選手たちの所属クラブも活動を休止。自宅待機で家に閉じこもる生活を余儀なくされ、公式戦がいつ再開されるのかもわからない状況が長く続いた。

ピッチ上ではスーパープレーを演じ、ファンやサポーターを熱狂させる選手たちも生身の人間だ。未来に対して募らせる不安が、時間の経過とともに心を蝕みはじめてもおかしくはない。

オランダに事務所を置く国際プロサッカー選手会(FIFPro)が、決して看過できないアンケート調査結果を公表したのは4月中旬だった。新型コロナウイルス禍によって世界中のプロリーグが中断されている状況下で、うつ病に似た症状を訴える選手が急増していると警鐘を鳴らしたのだ。

対象となったのは、大規模なロックダウン対策が講じられた国のクラブチームに所属する男子1134人(平均年齢26歳)、女子468人(同23歳)のプロ選手。3月22日から4月14日までに実施された調査で、前者で13%、後者では22%に、うつ病と一致する症状が見られた。

この冬に実施された同様の調査では、男子で6%、女子では11%だったことから、短期間でほぼ倍増したことになる。調査対象国に日本は含まれていないが、国際プロサッカー選手会(FIFPro)に加盟している日本プロサッカー選手会(JPFA)を介して情報は共有されている。

現役時代はガンバ大阪やセレッソ大阪、ヴィッセル神戸などで点取り屋として活躍し、日本代表としても2ゴールをマーク。ピッチ外ではJPFAの副会長を長く務め、今年度からJリーグの特任理事に就任した播戸竜二氏は、昨年まで現役だった立場から、会議の席でこんな言葉を残している。

「フィジカルコンディションを調整することも大事ですけど、選手たちのメンタルをしっかりとケアしていくことも必要だと思っています」

Jリーグの村井満チェアマンも、現場の声に耳を傾けている。ヨーロッパなどのロックダウンと比べて、日本政府が発令する緊急事態宣言は、外出禁止などの厳しい措置を伴わない。それでも「選手たちが心に抱く不安に変わりはない」と村井チェアマンは語る。

「一人で調整を行わなければならない状況に加えて、家族に対する不安や心労など、さまざまな要因で夜でも眠れないなどの不安定な心理状態にある選手もいる。ただ、選手の立場から、チームドクターや関係者に、気持ちが萎えているとか、不安定な状態にあることを言い出しにくい選手もいるのではないか」

村井チェアマンは、スペインで長く指導者を務めたJリーグの常勤理事である佐伯夕利子氏を介してスペインの情報を把握。その上で播戸氏の「メンタルのケアをしっかり行うべき」という提案を具現化するための方針も明かしている。

「スペインリーグのクラブは、心理学を専門とする、いわゆるフィジカルとは別の心の専門家を必ず擁している。Jリーグでも心の相談ができるような独立した窓口を設けることを、日本サッカー協会の医学委員会と連携しながら対応していきたい」
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文=藤江直人

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