新型コロナ禍で選手のメンタルに影 日本サッカー界でいま起きていること 


日本の選手たちの反応


では、日本の選手たちは、この現状をどのように受け止めているのだろうか。

緊急事態宣言が発令された4月7日前後から、ほとんどのクラブが活動を休止。選手たちも自宅待機を余儀なくされる日々が続いていた。

そんななか、所属する選手全員をオンラインでつなぎ、合同でフィジカルトレーニングなどを実施しているクラブも少なくない。そのひとつである浦和レッズは、ウェブを介した選手たちへの合同取材を定期的に実施。メディアを介して選手たちの声を、ファンやサポーターへ届けている。

「みんな元気そうですけど、逆に言えば試合が始まってからの方が、そういう部分が出やすいかもしれない。頑張ってきたけどコンディション的に上手くいかないとか、それまで試合に出ていた選手が出られなくなったときの方が心配になると思っている」

取材の場でこう語ったのは、レッズの「10番」を背負うMF柏木陽介だ。日本代表も経験したレフティーは、怪我の連鎖に苦しみ、昨シーズンのリーグ戦における出場試合数はサンフレッチェ広島でデビューした2006シーズンと並んで少ない17試合に、出場時間は最も短い1236分間に終わっていた。

捲土重来を期した今シーズンも、開幕節を終えただけで中断。その後にJリーグが降格なしという今シーズン限定の特例を決めたため、状況によっては若手を大胆に起用し、世代交代を図るクラブも出てくるかもしれない。ベテランと呼ばれる選手にとっては、逆風にさらされかねないシーズンになる。

ただ、柏木自身は、昨シーズンに味わわされたどん底を介して、どんな事態に直面しても折れない心を得ることができたと自負している。その柏木が言及した「そういう部分」とは、言うまでもなく仲間たちの胸中に巣食う不安や心労だ。

長期の試合中断により、身体のコンディションは開幕へ向けたキャンプ前のレベルに戻ってしまった。この先、段階的に練習を積んでも状態が戻らず、イメージと現実とが乖離したパフォーマンスに悩まされるかもしれない。ギャップを埋めようと焦れば、故障のリスクにつながる。これから来るかもしれない新型コロナの第二波や第三波の影響によって、再び試合や活動の中断を強いられるのではないかという不安に駆られる選手たちも出てくるだろう。シーズンが深まれば、来年へ向けた契約の話も、ベテラン勢や出場機会が少なかった選手に重くのしかかってくるかもしれない。
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文=藤江直人

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