もうひとつの不安の種は、母親以外の誰に、分娩室への入室許可を与えるかだ。感染が集中するニューヨーク市などでは、ほとんどの場合、パートナーの入室は許可されない。UNCレックス病院では現在、母親への付き添いを1人だけに制限している。
ブリメージ医師によれば、このルールにより妊婦は、パートナーを選ぶか、ドゥーラ(妊娠・出産・産後の心理的・身体的・社会的サポートをおこなう人)を選ぶかといった難しい選択を迫られている。妊婦たちは、病院内の状況や、どんな安全対策を講じているか、それらが出産計画にどんな影響を与えるかといった質問をしていると、彼は言う。
「人数制限以外に、変える必要のあることはほとんどありません」と、ブリメージ医師は言う。「分娩に立ち会うすべての医療従事者は、処置の間PPE(防護装備)を着用します。出産計画に変更があるとすれば、痛みを抑えるために亜酸化窒素(笑気ガス)を使用できないことです。CDCは、マスクに付着したウイルスがエアロゾル化し、室内のほかの人に感染が広がるおそれがあることを理由に、亜酸化窒素の使用中止を勧告しています」
「産科医として、陣痛と分娩の最中にわたしたち自身がどう身を守るべきかについては、曖昧な部分があります。分娩中にエアロゾル化が起こるかどうか、CDCから明確な回答は得られていません。分娩室では呼吸が荒くなる場面が多々あるため、多くの産科医が、通常のマスクではなくN95マスクを着用すべきだと考えています。いずれにせよ、妊婦から2m離れることは不可能です」
新型コロナウイルスの院内感染を恐れる妊婦は、自宅出産を選ぶべきだろうか? ブリメージ医師はきっぱりと否定する。
「統計的にみて、出産はリスクをともないます。分娩中には、迅速な対処が必要な、さまざまな合併症が起こる可能性があります。自宅出産のリスクは、病院でのウイルス曝露リスクを上回ります」
ブリメージ医師は、妊婦が出産前に健康と安全を保つためにできることとして、以下のアドバイスをしているという。
・高リスク群に属することを自覚して行動する
・ソーシャルディスタンス(社会的距離)を保つ
・できるかぎり家にいる
・可能であれば在宅勤務を選ぶ
・頻繁に手を洗う
・室内、携帯電話、コンピューター、車の表面を消毒する
・強い不安を感じる場合は支援を求める
「妊婦のみなさんの不安の増大は、直接見聞きして把握しています。わたしが診察したほぼすべての妊婦さんが、通常より強い不安を訴えています。未知の状況に対する不安です」と、ブリメージ医師は述べ、こう呼びかけた。「妊娠中の女性は、もし不安が日常生活に支障をきたすほど、あるいは本格的な抑うつ症状にまで悪化していると感じたら、すぐに産科医に相談してください。わたしたちが、妊婦さんたちの不安を真剣に受け止めており、不安な気持ちについて話を聞きたいと思っていることを、ぜひ知っておいてください。そうした症状を無視しないでください」