カンヌ映画祭も中止? 新型コロナで危機、映画バイヤーの切実な想い


バーチャル・マーケットで映画買い付け


私のように映画の買い付けをするバイヤーにとって、最も大事なイベントの一つがカンヌ国際映画祭だ。しかし、これもコロナ禍により、開催をめぐって揺れに揺れている。

例年5月に開催されるカンヌ国際映画祭は、「6月末に延期想定で検討」と3月末に発表されていたが、フランスで7月中旬までの大型イベントが禁止されたことで、その可能性も消えた。引き続き何かしらの形での実施を検討するというが、当面はいままでのように物理的に人が集まる映画祭の開催は難しいだろう。

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カンヌ国際映画祭の様子(c) Les Films Du Fleuve – Archipel 35 – France 2 Cinéma – Proximus – RTBF

一方、アメリカでは、インディペンデント映画の重要なお披露目の場であるSXSW(サウス・バイ・サウス・ウェスト)が3月の開催直前に中止になり、オンラインで審査委員賞・特別賞が発表された。上映予定だった作品はアマゾンプライムで配信と発表されたが、実際配信される長編映画は7本のみ(全体の5%)という結果に。お披露目の場がオンラインになることへのつくり手の抵抗が伺えた。

カンヌ国際映画祭と並行して行われる映画買い付けのためのマーケット(Marché du Film)は、6月22日からバーチャルで行われることが決まった。

もちろんオンラインでも作品の鑑賞はできるし、映画の売り手(セラー)との交渉や、作品の評判を知ることだってできる。実際、映画祭の期間以外に映画を買い付けることもあるし、AFM(アメリカン・フィルム・マーケット)のように映画祭と連動しないマーケットもある。映画の売買自体は映画祭がなくてもできるのだ。

しかし、やはりすべてがオンラインで完結するのは、盛り上がりに欠ける印象が否めない。映画祭の会場を駆け回って、対面で人と語り、肌で熱を感じるという、全身を使った買い付けからオンラインへのシフト。想像してみるだけで味気ない。映画祭には映画祭にしかない空気がある。

映画祭は、世界中から映画関係者が集まり、企画・制作・売買、そのためのネットワーキングなど、映画にまつわるあらゆるイベントが行われる。その場にいることに特別な意味合いがある。

よく、映画は観られてはじめて完成すると言われるが、まさに「映画が完成する瞬間」が映画祭にはある。ダイレクトに観客の反応が肌感覚で伝わってくるし、共有できるのだ。

映画祭の現地での熱や評判は、作品に更なる価値を与え、買い付けにおけるひとつの指針となる。映画祭で受賞したからといって、映画が必ずヒットするわけではない。しかし、昨年カンヌで最高賞パルムドールを受賞した『パラサイト 半地下の家族』が、アカデミー賞作品賞を含む4部門受賞という快挙を成し遂げ、非英語圏の映画がカンヌを経て世界中で商業的な成功をおさめる前例を作った。例年通り実施されていれば、今年はさらに熱のこもった場になっていただろう。

今回のバーチャル・マーケットでは、私たちバイヤーは効率的にビジネスができるようになるのだろうか。映画祭の選出作という濃淡がないなかで、作品の買い付けは、いつも以上に情報戦になるのだろうか。未知数だ。
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文=伊藤さやか

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