テスラが無償提供する人工呼吸器「量産化」で直面する課題

イーロン・マスク(Yasin Ozturk/Anadolu Agency via Getty Images)

新型コロナウイルスの感染拡大により人工呼吸器の不足が懸念される中、アイルランドの医療機器メーカー「メドトロニック(Medtronic)」は、人工呼吸器の基本モデルの設計仕様書を他業界のメーカーに提供すると発表した。

同社は、イーロン・マスク率いるテスラと人工呼吸器製造でパートナーシップの締結を協議している。ダブリン本拠のメドトロニックは3月30日、「業界を超えて人工呼吸器の生産を可能にし、COVID-19と闘う医師や患者を支援するため」として、人工呼吸器PB560の設計仕様書を一般公開した。

ソフトウェアを含む他の情報についても、近日中にダウンロードが可能になるという。PB560はコンパクト型の人工呼吸器で、2010年のリリース以降、35カ国で販売されている。

「人工呼吸器は患者の命を救う上で必須の機器だ。当社は世界的な危機に対処するためPB 560の設計仕様書を公開し、人工呼吸器の生産が世界規模で拡大することを期待している」とメドトロニックのエグゼクティブ・バイスプレジデント、Bob Whiteは述べた。

イーロン・マスクは今月、メドトロニックとテスラが協力して人工呼吸器の製造に乗り出すことをツイッター上で公表した。マスクは先週、ロサンゼルスの病院に1200台以上の人工呼吸器を寄贈したことを明らかにしており、3月31日のツイートでは「テスラが販売拠点を構える各国の病院に、人工呼吸器を無償で届けていく」と宣言した。

病院からの要請は、テスラの公式ツイッターアカウントで受け付けるという。しかし、同社が提供可能な人工呼吸器の台数や、製造元などの詳細は開示されていない。

メドトロニックCEOのOmar Israkは先週、CNBCのインタビューで、「テスラとは、人工呼吸器の部品製造からフルスケールの製品開発まで様々な可能性について協議している」と述べた。

同社の広報担当のErick Winkelsは、「テスラとの協業によって大きな成果が得られることを期待しているが、現段階ではこれ以上公表する情報はない」と話した。

マスクは、3月25日のツイートで、ニューヨーク州バッファローにあるテスラの太陽電池工場を、なるべく迅速に人工呼吸器の生産工場に転用することを明らかにしたが、両社の協議がどこまで進んだのかは定かではない。

製造に向けた課題


テスラは、感染拡大による自宅待機命令を受け、今月からバッファロー工場とカリフォルニア州にあるフリーモント工場を閉鎖している。関係筋によると、バッファロー工場には高精密製造を行う機器があるものの、医療機器の生産には適していないという。

バッファロー工場に1年以上前に勤務していた元従業員は、次のように述べている。

「バッファロー工場に設置された太陽光パネルの製造機器は半導体プロセス機器のようなもので、人工呼吸器の製造には適さない。一方で、工場の大きな割合を占める太陽電池モジュールの組み立て施設は、人工呼吸器の製造に転換しやすいだろう」

さらに、テスラにとって課題となるのはサプライチェーンの問題だという。「人工呼吸器を製造する上では、射出成形金型や3Dプリンティングの企業からパーツを調達することが非常に重要だ。しかし、イーロン・マスクなら、組織をまとめあげてこれらの課題をクリアすることができるだろう」とこの人物は語った。

編集=上田裕資

ForbesBrandVoice

人気記事