「寝不足自慢」にピリオドを。働き方改革を後押しする睡眠の可能性

(左)ワーク・ライフバランスの小室淑恵 (右)ニューロスペースCEOの小林孝徳


小林:確かに、多くの家族が求めていると思います。

小室:夫婦間の睡眠時間の差は、そのまま自分に跳ね返ってきますからね。子どもとの関係性も変わってくる。家族全体のQOLを高めるためには、家族をチームとして捉えて全体最適を図っていくことがポイントだと思います。

睡眠時間が確保できるようになって、なんと講演の満足度も上がったんです。かつてはアンケートにかなりの確率で「早口だ」って書かれましたが、今は全く書かれないんです。実は今のほうが早いくらいなんですが(笑)、聞き手が早口に感じるのは、きっと話し手の雰囲気なのでしょうね。責め立てられているように感じたり、論理を押し付けられているように感じたりすると、不快な早口という印象につながる。睡眠時間を確保できていることで、リラックスして安定していることが、講演においてもポジティブな雰囲気につながるのかもしれないと思います。年間200回の講演をご依頼いただくのですが、満足度は平均で99%になりました。

労働力が減ってきているからこそ、睡眠時間を確保すべき


小林:小室さんはここ数年、講演で睡眠の話を取り入れるようになったと聞きました。働き方改革が進むなかで睡眠に関する考え方の変化などはあったのでしょうか?

小室:やっと睡眠について話ができるフェーズになったと言えるでしょうね。2019年4月から改正労働基準法によって時間外労働は月45時間、年360時間という上限規制ができて、「成果を出すためには時間がかかるのは仕方がないから残業は制限するべきではない」「残業している人のほうが組織にとって助かる人だ」というような論調はさすがになくなりました。ただ、月45時間という上限があったとしても、たとえば「繁忙期だから」という理由で3日ぐらい徹夜させるような働かせ方はまだまだ起きています。労働人口が減少傾向にあるなかで、この法改正だけでは、過労死や精神疾患はなくならない。もっと1日ごとの睡眠時間に注目していかなければいけないと強く感じるようになりました。

小林:2017年に流行語大賞に入賞した「睡眠負債」という言葉があります。適正な睡眠時間が7時間のところ、5時間しか眠れなかったら睡眠負債は2時間。それが月曜日から金曜日まで溜まったら、睡眠負債は10時間になる……という言葉です。ただ。お金の負債と異なって、睡眠時間は貯金や一括返済ができないんです。

小室:「寝溜め」に意味がないことは科学的にも証明されていますよね。

小林:そうなんです。10時間の睡眠負債があるからといって、土日に10時間余計に眠ったとしても生活リズムが乱れるだけ。それどころか、憂鬱な気分で月曜日を迎えることになります。かといって、月曜日徹夜するために日曜日に20時間寝ておくという考え方も通用しない。毎日毎日の睡眠時間をきちんと確保して、質を担保していくことが大切なんです。

「質」について解説しますね。睡眠にはノンレム睡眠とレム睡眠があることは有名です。ノンレム睡眠はステージ1、ステージ2、ステージ3に分解される。特にステージ3は入眠から3時間ぐらいの間にディープスリープ(徐波睡眠)が出現して、脳や体の休息が行なわれる非常に重要な時間なんです。後半になるとレム睡眠が増え、心の休息や感情の整理がされるようになる。

睡眠の前半と後半で役割は異なるので、適正な睡眠時間が取れていないとメンタルが病んでしまったりストレス耐性が弱くなったり、免疫力が低下して健康被害に遭ってしまったりするわけです。その辺りが今後職場でシリアスな問題になっていくと思われます。
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文=田中嘉人 写真=帆足宗洋

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