「寝不足自慢」にピリオドを。働き方改革を後押しする睡眠の可能性

(左)ワーク・ライフバランスの小室淑恵 (右)ニューロスペースCEOの小林孝徳


小林:いま私たちはNTTデータさまにプログラムを導入いただいています。

導入前に「睡眠時間に満足していますか?」というアンケートをとったところ「はい」と回答したのは12%ぐらいでした。ところが、半年以上プログラムに参加してもらってから再度同じアンケートをとったところ「はい」が70%以上に増えていたんです。もちろん客観的なデータもとっているんですが、総合的に「睡眠の質がよくなり日中の集中力が上がった」という意見が多いですね。

少し具体的な話をしますね。システム系の職種で深夜にエラーが起きて2〜3時に目が覚めてしまう方がいました。「朝もだるいし、昼間も眠い」と。だからわたしたちは「眠り初めから3時間が大切だ」ということをお話し、22時にはベッドに入ってもらうようにしたんです。すると、途中で起きたとしても前半3〜4時間は寝られる。その結果、昼間の眠気が全くなくなり「睡眠時間を意識するだけでもこんなに違うんだ」と驚いていただきました。ちょっとしたシフトワークでしたが、それによって大きな結果が出たのはうれしかったですね。ITコンサルタントのようにクリエイティビティーが求められる職種で良い結果が出たので、この結果をいろいろな業界・業種に横展開して、文化を変えていきたいです。



小室:今後働き方改革を推進していくうえで、睡眠を可視化して振り返る習慣をつくっていくことはすごく大切だと思います。それこそ「睡眠力」みたいな言葉で。個人としてというよりもチームとしての睡眠力がブランディングになる社会になるといいですよね。

ちょっと前までは“寝ていない自慢”がまかり通る世の中でしたが、忙しいことを自慢する時代にはピリオドを打たなければいけないと思っています。国のメンタルヘルスや少子化問題とも密接に関わる部分なので。

そして個人的には勤務間インターバル制度を義務化しなければいけないと思っています。EUでは、前日帰宅してから11時間経たないと翌日の業務を開始できない「インターバル規制」がすべての国で批准されています。2019年に労基法が改正されてインターバル規制は日本でも「努力義務」になり、次の労働基準法の改正は5年後で義務化されると予想されています。しかし、それではあまりにも遅い。その間に日本は少子化が加速して、救いようのない状態になってしまうので。ここ1〜2年で前倒しで議論されるようになって、世の中のムーブメントが法改正を選考するような状態をつくっていきたいですね。

小林:わたしたちは、2020年2月に昭和西川さま、損害保険ジャパン日本興和さま、大正製薬さま、一般社団法人社会的健康戦略研究所さまと睡眠業界横断の「睡眠サービスコンソーシアム」を設立しました。目的は、睡眠に関する信頼できる情報を明示する基準やガイドラインの策定、そして消費者が安全にサービスを選べる仕組みづくりや、睡眠に関するリテラシーの向上、情報発信などです。

いまは働き方改革の文脈でインターバルやフレックス勤務、リモートワークなどいろいろ言われていますが、結局のところいくら時間を確保できてもチームへの信頼が低いなどでストレスが高いと睡眠の質が低くなり本質的解決にならないので。

それに人によって朝型、夜型、中間型とタイプもさまざまで必ずしも早寝早起きが良いわけではないんですよね。睡眠の質を向上できるように啓蒙していくことで、社会が睡眠を尊重する文化をつくっていきたいと思います。

文=田中嘉人 写真=帆足宗洋

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