ビジネス

2020.03.12 12:00

「可能な限りビッグになりたい」世界最大ホテル帝国が成長を続ける秘密

マリオット・インターナショナルCEOのアーン・ソレンソン

エアビーアンドビーの台頭やミレニアル世代の嗜好の変化。逆風のホテル産業で、業界きっての成長を続け、その帝国を拡大し続けるマリオット。その秘密に迫る。


2015年10月のある日、アーン・ソレンソンは電話を手にし、会長のビル・マリオットの番号にかけ、常軌を逸した提案をする。「W」「セントレジス」「ル・メリディアン」などの高級ホテルチェーンを擁するライバル、スターウッド・ホテル&リゾートを136億ドルで買収しようというのである。

80歳代に入ったホテル帝国の長老は、その3年前にソレンソンをマリオットの最高経営責任者(CEO)に指名し、92年目を迎える会社の指揮を初めて、創業家以外の人間に任せたばかりだった。ソレンソンはこう振り返る。「彼がこう思っていたのは明らかだよ。『なんてことだ、からかってるのか? 130億ドルの取引だと? すべてが順調に運んでいるのに、なぜその上にこんなものを抱え込むんだ?』とね」。

だがソレンソンは「ウェスティン」や「シェラトン」を含むスターウッドの11のブランドをマリオットに加えるという考えを捨てることができなかった。実現すれば世界最大のホテル会社が創れるのだ。4日後、彼はビル・マリオットと膝詰めで財務モデルを検証した。前職は弁護士であるソレンソンの説得力ある言葉に、マリオットはサインすることを決意した。
 
エアビーアンドビーの台頭に加えて、型にはまった客室よりもインスタ映えする宿を好むというミレニアル世代の嗜好の変化もあり、ホテル業は時代遅れの産業になりかねないリスクがあった。だがソレンソン指揮下のマリオットは違った。彼がトップに就任して以来、客室数は倍増し、130万室以上になっている。2018年の収益は200億ドルを超え、この5年間で62%アップした。

エアビーアンドビーは業界の破壊者だとしつつも、61歳のソレンソンは、マリオットの提供可能な客室数当たりの収益が、この5年間四半期ごとに成長していることを指摘する。「彼らはホテルの死に神か?」。彼はそう言うと、口角を上げて笑顔を作った。「そうは思わないね」。
 
投資家もまたほくほく顔だ。12年3月にソレンソンが経営を引き継いで以来、マリオットの株価は226%上昇した。ライバルのハイアット(69%上昇)やヒルトン(13年のIPO以来、117%の上昇)を凌駕し、S&P500種指数(113%上昇)を圧倒する成績である。
 
こうした市場パフォーマンスや雇用の創出(従業員数は73万人)、さらには使い捨てのプラスチック入りアメニティの提供を廃止するといった持続可能性への貢献も加味され、マリオットは今年、米国で最も公正な企業を集めた本誌の「Just100」リストに返り咲いた(従業員、顧客、コミュニティ、そして環境に配慮しているかを元に作成された米国で注目の指標。本年で3年目となる「JUST(公正な)」企業100社ランキング)。
次ページ > 人生最大の試練

文=ビズ・カールソン 写真=アーロン・コトフスキー 翻訳=町田敦夫

この記事は 「Forbes JAPAN 4月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

ForbesBrandVoice

人気記事