ビジネス

2020.03.12

「可能な限りビッグになりたい」世界最大ホテル帝国が成長を続ける秘密

マリオット・インターナショナルCEOのアーン・ソレンソン


ただ、称賛こそ得たものの、18年はソレンソンにとって困難な年だった。スターウッドのシステムから大規模なデータの流出が見つかり、1億2600万ドルの罰金を科された。また労働者の賃金を巡る米国内のストライキで、同年の収益が圧縮された。さらにトランプ大統領の外国人嫌悪的な発言のために、米国行きの国際的な旅行需要が低迷した。
 
おまけにソレンソン個人も、上記のすべてを霞ませるような、人生最大の試練にさらされた。ステージ2の膵臓ガンである。取材を行った19年8月後半、前週に化学療法を終えたばかりのソレンソンは、髪が少し薄くなり、体つきも細くなったと語った。「床屋に言われたよ。バーコード頭にする人も多いのだから、剃らないでおけってね」と、彼は笑いながら言う。

「自分のことを、ガンを抱えたCEOだとは考えない」と、ソレンソンは言う。「私は楽天的なんだ。直面している診断の深刻さは重々承知してもいるがね」。

ミネソタ州生まれのソレンソンは、ワシントンDCの法律事務所で働いていた1996年に、ある訴訟案件でマリオットの代理人を務めた後、創業者の息子であるジョン・ウィラード・“ビル”・マリオット2世に引き抜かれ、ホテル業界に足を踏み入れた。聞き上手だが、賛同できないことに関しては話をはぐらかすことで知られるソレンソンは、完璧な「代役」であることを証明し、わずか2年間でM&A部門のトップから最高財務責任者(CFO)へと昇格した。2003年には欧州マリオットの社長となり、その6年後には本社の社長兼最高執行責任者(COO)となっている。

ソレンソンは重役として有能だっただけではなく、敬虔なモルモン教徒であるマリオット家と重要な価値観を共有してもいた。ルター派の宣教師である両親のもとに東京で生まれ、信仰を基礎として育てられたのだ。このつながりは、4人の子どものいずれかに事業を直接譲ろうとしていたビル・マリオットが、その当初計画を放棄する鍵ともなった。

戦略は「巨大化」すること


スターウッドとの取引でマリオットはヒルトンを大きく引き離すこととなり、業界の様相は一変した。マリオット傘下の7100件のホテルの半分強がフランチャイズであり、各ホテルの所有者たちはマリオットの名称やロイヤリティプログラム、顧客サービスを使用する代価として、客室から上がる収益の4〜6%を(それに加えて飲食物の売り上げの2〜3%も)支払っている。

それ以外のホテルはマリオットにマネジメントを委ねるために、さらに多くの金額を支払う。アジアとラテンアメリカのマネジメント・ホテルでは、その総額は利益の約7〜9%に達する。米国のマネジメント・ホテルの場合は、まずマリオットがホテルの所有者に保証した金額を支払い、その後に残ったキャッシュフローの25%を取る(マリオットは不動産を抱え込みすぎる陥穽にはまらないようにしている。世界全体でも14軒のホテルを所有し、49軒を借り受けているだけだ)。
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文=ビズ・カールソン 写真=アーロン・コトフスキー 翻訳=町田敦夫

この記事は 「Forbes JAPAN 4月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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