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2020.03.19 08:00

技術と社会の「分断」を越える。スウェーデンのRISEという挑戦


エンジニア視点に偏らない工夫を


そんなRISEのなかに、RISE ICTという部門に属するサブユニット、RISE interactiveがある。

メディアとインタラクションを専門とする研究所で、エンジニアリング、政治経済、芸術文化、デザイン、心理学など複数にわたる専門分野のバックグラウンドを持ち、“多角的な思考ができる”スタッフ20名が、ゲームやアート、エンターテインメントといった側面から、人と技術の関係性や、産業のあり方、倫理や権力問題など、デジタル化が生み出すさまざまな課題に取り組んでいる。

こうした体制を敷く背景にあるのは、ICT技術を考えるうえでは、エンジニア視点だけでなくデザイナー視点が不可欠で、明確な正解の存在しない課題に対して、多角的に、試行、スケッチ、戦略的アプローチが必要とする考え方だ。

実際にRISE interactiveから生まれた事例として、前述のユングストランド氏と友人の認知心理学者が開発した「インターネット精神療法」や、ユーザーの一日の運動量によって表情や態度が変わる犬型ロボットの開発などがある。

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RISE intitute ホームページより(ri.se/en/afou-network)

余談になるが、RISE interactiveを以前率いていたのは、1976年生まれのダリヤ・イーサクソン(Darja Isaksson)という女性。デジタルストラテジストでもある彼女は、もともと先端的な芸術、デザイン、メディア論を専門としていたが、2015年より政府のイノベーション評議会のメンバーになり、現在、イノベーション創出をバックアップする政府官庁「VINNOVA」を率いる存在となっている。

国として先端的研究や開発に投資しイノベーションを推し進めるための省庁のトップに、彼女のような、まったく理系でなく、デザインやアートを専門とする30代の人材を据えること自体が、スウェーデンの先進性を示しているとも感じられる。
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文=江渡 浩一郎

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