この論文でクリーセンが主に検証したのは、長期と短期の利回りが逆転する「逆イールド」と、「失業率の谷」という2つの指標だ。どちらも、過去に何度も景気後退の予兆となった実績がある。
多くのエコノミストにならい、クリーセンも「米国債10年物の利回りが3か月物の利回りを下回った場合」を逆イールドと定義した。これは比較的まれな現象で、過去の事例では、景気後退の前に発生することが多い。一方、失業率の谷には逆イールドほど明確な定義はないが、1つの景気サイクルの中で失業率が底を打ったポイントを指す。
この2つの指標が「好成績を挙げる」とは、どのような意味だろうか? このケースでは、両方の指標が過去の景気後退を、誤検知がほとんどない状態で予測できていたことを意味する。ただし重要なことだが、これらの現象が起きてから実際に景気が後退するまでのリードタイムがまちまちである点は、注意を要する。
時には、これらの指標が全くの空振りに終わることももちろんある。だが、正しく予測できていた場合でも、景気後退が起きるまでの期間には、1か月から16か月までの開きがある。これでは、正確な指標とは言えない。
最も優秀な指標は、迫り来る景気後退を、間違いなく、なおかつ起きるタイミングに関してもブレのないかたちで予測するものだ。だが実情は、どんなに正確な指標であっても、今から1年ほどの期間に起きる景気後退を高確率で予測できる程度だ。優秀な指標には、ある程度の正確性が認められるが、後退が起きる時期をピンポイントで予測できる域には達していない。
結局のところ、景気後退の予測指標としての正確性に関しては、逆イールドと失業率の谷にはそれほどの違いがないと、クリーセンは結論づけている。どちらも悪くはないが、完璧には程遠いということだ。