【独占】エイベックス黒岩克巳社長、逆風と勝算「それでも、コンテンツメーカーであり続ける」


J-POPはK-POPにマーケットを提供し、先を越された


日本は少子化が進み、マーケットが小さくなっていく。一方で世界の人口は増え、グローバル化が進んでいます。エンターテインメントは何をしなきゃいけないのか、その可能性は、やはり国境を越えたIPにあります。

その中心は音楽とアニメです。いま、10年前には考えられなかったことが起きています。日本のマーケットにおいては、僕たちはかなり以前からBoAをきっかけに韓国のアーティストを手掛けていました。それからたくさんの韓国のアーティストがやってきて、日本では2010年頃にK-POPブームが到来し、いまでは確実に一つのジャンルになり、一つのマーケットになりました。

それ以前は個々のアーティストのファンマーケットはあったんですけれども、ジャンルとして確立されてきたのはここ10年弱ぐらいです。ポイントは、K-POPがグローバル規模でひとつのマーケットになってきているということです。いま、Apple MusicやSpotifyの中のカテゴリーの中にはカントリーミュージックやヒップホップなど、いろんなジャンルがありますが、K-POPはひとつの確立されたジャンルなんですよね。世界的プラットフォームの中の一つのジャンルとしてある。J-POPは悲しいかな、ないんです。

彼らは何をしたのか。長いポートフォリオの中で戦略的に、着実に、グローバルなマーケットをつくっていったんです。まず隣の日本のマーケットに進出した。僕たちは「一緒にやろうよ」とマーケットを提供し、そして彼らはノウハウを吸収していきました。

彼らは日本市場で得た資金で、世界にK-POPを広げていく、勝負をかけていくのだというグローバルな感覚がそもそもあったわけですよね。そのとき日本の音楽業界では、国内の順位や人気にこだわっていました。出てくる音楽は日本のマーケットを意識したメロディーライン、歌詞、ビジュアルでした。

日本マーケットは先細りしていく。最初から世界展開を


それが悪いということではありませんが、我々もK-POPを見習っていかなければいけないところは確実にあります。2030年ぐらいのときに、J-POPがジャンルとしてしっかり確立されているためには、そのきっかけをつくるアーティストを出さないといけない。例えばBTSのように、最初から世界展開を照準に定めたアーティスト育成やコンテンツづくりに、エイベックスはぜひ挑戦していきたい。

アニメもすごく面白いです。いま、アニメを中心とした映像コンテンツを手がけるエイベックス・ピクチャーズも、最初から北米や中華圏に提供するのを想定して原作をつくっているんです。アニメは吹き替えや字幕で対応できますので、世界に向けたアニメーション、ストーリー、音楽をつくっていきます。

日本のマーケットは先細りしていく。その現実を受け入れながら、日本以外のところでマネタイズできるような発想を持ったコンテンツ、IPをやっていこうという体制を明確にしています。なかなか1、2年でできる話ではありませんが、小さいところでは少しずつ芽が出てきています。

日本から世界に持っていくコンテンツを生み出すだけではありません。エイベックス・チャイナでは2年ほど前から、僕たちのノウハウやクリエイティブを活かしながら、現地スタッフと一緒に中国の方のマネジメントをしたり、レーベル活動を支えたりしています。

また東南アジアのエンタメ市場は盛り上がっていますね。マレーシア、フィリピン、ベトナムの女性はファッションやメイクに敏感です。いま、東南アジアで人気があるのも韓国の女性アーティストなんですよね。比較的「かっこいい」系の韓国勢が人気で、アイドルなど「かわいい」系の日本勢は苦戦していますが、今後王道の分野でぶつけていきたいと思っています。
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文=林亜季、写真=小田駿一

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