この論文は、「各国の中央銀行にとっての銀行」という役割を持つ国際決済銀行(BIS)と、フランスの中央銀行であるフランス銀行(Banque De France)の専門家がまとめたものだ。
現在の情勢を見ると、各国の中央銀行は、「最後の貸し手(Lender of last resort)」ならぬ「気候の最後の救い手(climate rescuers of last resort)」という立場に置かれる可能性がある。しかし、気候変動の「不可逆的な」影響を食い止めるための金融政策はほとんど存在しておらず、金融システムへの資金投入もないと、論文の著者たちは主張している。ここで問題にされているのは、気候変動がシステミックな金融危機を引き起こす「グリーン・スワン」リスクの影響だ。
「グリーン・スワン:気候変動の時代における中央銀行の役割と金融の安定」(The green swan: Central banking and financial stability in the age of climate change)と題されたこの論文の中で著者たちは、座礁資産(市場や社会の環境が変化することにより、価値が大きく損なわれる資産)がかなり多い状況で、低炭素経済への急激な変化が起きると、投資家による投げ売りが発生し、これが結果的に金融危機を招くおそれがあると警告している。
さらにもう1つの危険性として論文が指摘しているのは、信用・市場リスクの影響でバランスシートが損なわれた銀行において、短期のリファイナンスが不可能になり、銀行間の貸出市場で緊張が高まる可能性だ。
論文は、気候変動対策においては、各国政府内での一元化された取り組みが不可欠だと主張している。
「低炭素経済への移行を成功裏に実現する責任を第一に負うのは、政府の他の部署である。だが、そうした部署の対応が不十分な場合、中央銀行は、金融(と物価)の安定を図るという自らの任務を、もはや果たせなくなる恐れがある」と、著者たちは主張している。