感染が長期化したらどうなる?
インバウンド需要の減少を通じた日本経済に与える影響について、木内氏はNRIの時事解説において、以下のような試算を発表した。2003年1月時点での訪日観光客数の前年同月比と、2003年全体の訪日観光客数の前年同月比との差を、SARSの影響による訪日観光客数の減少分とみなすと、その影響は中国からの訪日観光客数は−13%、訪日観光客数全体では−15.4%となるという。
2020年の訪日観光客数が2003年と同じ割合で減少した場合、中国からの訪日観光客数の減少は2020年の日本のGDPを2650億円押し下げる。訪日観光客全体では7760億円下げ、GDPを0.14%下押し下げる計算になる。
ちなみにSARSが流行していた2003年5月単月では、中国からの訪日観光客数は前年同月比−69.9%、訪日観光客数全体では、−34.2%と深刻な影響が生じた。仮に当時と同程度の影響が1年間続くとすれば、新型肺炎の影響で日本のGDPは2兆4750億円、0.45%押し下げられる試算となる。
木内氏は「日本経済の潜在成長率は0.7%程度。感染が長期化すれば、試算のように、よりひどい影響が出る。今後のインバウンド需要への影響に止まらず、中国経済での消費や企業活動への悪影響が続けば、物流や人の流れが制限され、日本の輸出などにも響く」と予測。さらに日本で感染者が増えた場合は「感染しないように外出や消費を控える人が増え、企業活動にも悪影響を与えるだろう」と語る。
すでにGMOインターネットなどIT企業を中心に、新型コロナウイルスによる肺炎が国内でも確認されたことから、従業員を在宅勤務に切り替えるなどしている。木内氏は「現時点ではこの動きが、経済活動に影響が出るとは見られない。外出を控えることで個人消費が落ちるものの、全体的には経済への影響の広がりはそこまでないだろう」と見ている。
北京の鉄道駅で検査を受ける乗客 (Kevin Frayer/Getty Images)
それでは今後、新型コロナウイルスの動向を追うため注目すべき点は何か。木内氏は以下の2つを指摘する。
・感染の急速な拡大がどこまで広がるか
・致死率3%程度(WHO発表)が変化するかどうか
まず木内氏は「感染者数の増え方は、それほど感染が広がっているのか、感染が確認できるようになったため増えているのか現時点ではわからない。同様のペースでの拡大がどれほど続くか、見ていく必要がある」という。
新型コロナウイルスによる肺炎が発症すると、発熱やせき、呼吸困難などの症状が出て、高齢者や基礎疾患のある人は重症化するケースも見られる。一方で、SARSの致死率10%に比べて、新型コロナウイルスの致死率は3%程度。木内氏は「現時点では発症しても軽度の方が多いが、ウイルスは突然変異する可能性もあり、致死率の変化を見る必要がある。中国政府による武漢の封じ込め政策の効果や、有効なワクチン開発など、収束のめどが立てば、日本への影響も限定的に留まるだろう」としている。
2020年夏に東京五輪を控え、感染症の拡大を防ぐ水際対策の強化が求められている。木内氏はこう指摘する。
「現状では発熱があれば、空港の検疫のサーモグラフィーで検知できるが、発熱していない場合は自己申告をベースにしている。感染を短時間で感知できるようなゲートがなければ、水際で食い止められない。五輪に向けて、水際対策の信頼性が求められている」