もちろん、韓国も日本と同様、イランとは経済的な結びつきがある。おいそれとは手を出しにくい。だが、米国からみれば、イランは韓国と敵対する北朝鮮と密接な関係にある。韓国が日本よりも参加表明の時期が遅れた背景には、米韓同盟に批判的な支持者が多い文在寅政権の事情もあっただろう。日本外務省に比べ、中東の専門家が少ない韓国外交省の問題もあったかもしれない。
また、韓国は北朝鮮を最大の脅威と位置づけている。さらに日本への対抗心からか、イージス艦や大型輸送艦などの建造に費用を割きすぎており、韓国海軍は十分な艦艇を保有しているとは言いがたい。韓国海軍にとって最も近しい友軍である在韓米海軍は司令部機能しか持たない。在韓米軍を指揮する米第8軍は、米インド太平洋軍とは独立した組織のため、米軍の国際展開について十分な知識や情報を得にくかった事情もあるだろう。
韓国の軍事専門家によれば、韓国政府が派遣について何もしてこなかったわけではなかった。韓国国防省は一時、米主導の有志連合に加わる案も検討していたという。昨年11月には、米韓の防衛費分担交渉で、米側がたびたび「同盟への貢献」に言及したことから、派遣の決定を急ぐべきだという声も韓国政府内に浮上した。
ただ、米韓同盟に頼りすぎない安全保障を掲げる文在寅政権内には終始、派遣に慎重な意見があった。ホルムズ海峡を巡る緊張が昨年後半に一時、沈静化していたことや、米主導の有志連合への参加国が増えない事情もあり、派遣について決めきれなかったという。
結局、1月にイラン革命防衛隊のソレイマニ・コッズ部隊司令官が爆殺されたことで米国とイランの緊張が再び高まった。韓国世論も派遣に慎重な意見が強まった。ハリス駐韓米国大使が公開の席で派遣を求める趣旨の発言をしたこともあり、韓国政府は更に苦しい立場に追いやられた。その結果、バーレーンの米軍司令部への連絡官派遣に一時傾いたところ、米側の反発もあって駆逐艦部隊の独自派遣に落ち着くという迷走劇を演じることになった。
逆に言えば、今回の日韓が中東派遣を巡ってみせた対応の違いは、「インド太平洋地域の抑止力として最も米国が期待する同盟国は日本」という構図を浮き彫りにした。日韓両国の対応の違いは、米国の思惑や中東地域情勢についての分析と外交力、自らが保有する防衛・軍事力の運用能力などの差を明確に示したと言えるからだ。インド太平洋地域には、他に米国の同盟国として豪州も存在するが、海軍力に劣るため、米軍が期待するような展開は難しい。
ただ、日本は「やっぱり日本の外交力も自衛隊もすごい」と喜んでばかりもいられない。その能力の高さを示せば示すほど、米国の要求に誠実に応えようとすればするほど、米国の日本に対する期待も高まる一方だからだ。当面、トランプ米大統領が強い関心を示す防衛費分担交渉が問題になる。