もちろん、そんなに都合の良い状況は簡単には生まれないだろう。昨年5月の事件で使われた吸着機雷(limpet mine)を防ぐのも容易ではない。ただ、憲法9条の制約を考えた場合、現状ではこれが自衛隊のできる精一杯の措置と言えるだろう。
また、海上自衛隊の連絡官が1月16日から、有志連合の司令部が置かれているバーレーンの米第5艦隊司令部で活動を始めた。これで、リアルタイムで有志連合が保有する情報を手に入れることが可能になった。海自部隊の独自派遣によって米国とイランの双方の顔を立てた上、海自部隊が孤立しないようにするための措置と言える。
一方、この間の韓国政府の対応には理解に苦しむ点が多々あった。
その象徴が、1月14日に米サンフランシスコ近郊で行われた米韓外相会談だった。韓国外交省によれば、康京和韓国外相とポンペオ米国務長官は中東情勢について協議したとされる。ただ、実態はかなり緊迫した状況だったようだ。
米韓関係筋によれば、有志連合への参加を求めてきた米国に対し、康京和外相はバーレーンの米第5艦隊司令部に韓国軍から連絡官を派遣する考えを伝えた。康氏の提案の背景には、あわよくば、連絡官の派遣だけで済ませたいという思惑があったようだ。これに対し、ポンペオ氏は「自国の船舶は自分で守って欲しい」というトランプ米大統領の考えを背に、強い難色を示したようだ。
康京和外相と韓国大統領府は、米側の難色に困惑した。その結果、ジブチ沖での海賊対処活動を行っている韓国海軍の駆逐艦部隊の活動範囲を広げることにしたという。
韓国の康京和外相
まず、「カードを切る順番」がおかしかった。前述した通り、バーレーンの米司令部への連絡官派遣は、貢献というよりも、「米国情報を分けてもらう」という意味で、連絡官を送り込む側にメリットがある。それで「米国への貢献」を強調すれば、米側が反発するに決まっている。
次に海賊対処活動に従事していた駆逐艦部隊の転用は、これも前述した通り、派遣されている将兵の士気に影響を与えかねない。3番目に韓国軍駆逐艦の活動範囲には、ホルムズ海峡も含まれている。有志連合には加わらないものの、場合によってはイランと敵対する可能性もある。
また、別の米韓関係筋は「韓国はカードを切るのが遅すぎた」と語る。すでに、日本や英国、豪州、湾岸諸国などが、中東地域への部隊派遣を表明している。先に参加を表明した国はそれだけで米国に感謝されるし、活動する様式や範囲の選択肢も広がる。日本も湾岸戦争後の1991年、ペルシャ湾に機雷掃海部隊を派遣した。だが、派遣時期が遅れたため、他国軍が掃海仕切れなかった難しいポイントでの掃海作業を強いられることになった。