その業界は大丈夫なのか?
まずは、マクロな視点からの分析だ。就活生にも「業界研究」といえば馴染みはあるだろう。では、そもそも金融業界は、社会人として身を置く業界としてどうなのだろうか。
筆者は、金融自体は良い業界だと考えている。なぜなら、どの業種の企業であれ、お金とは無縁でいられないからだ。斜陽産業と呼ばれる業界があるのも事実だし、過去には消えていった業界もある。しかし、金融業界が消えていくことは、今後まずないだろう。現在の資本主義社会のなかで、金融の役割が消えたら、すべてが崩壊しかねない。
それでは、金融業界に進みたいと思った学生は、どこでも好きな金融関連の企業を選べばいいのだろうか。残念ながらそれは違う。ここ数年で、FinTechと呼ばれるITを活用して金融サービスを提供するベンチャー企業が台頭してきたり、ノジマや丸井といった異業種からの金融業への参入も加速していたりする。同じ金融業界に進むにしても、さまざまな企業があるわけだ。
プレイヤーが増えれば、それだけ競争は激化し、その競争の過程のなかで勝ち組と負け組に自然と分かれていくことになる。業界自体の選択がよかったとしても、どのプレイヤー、つまりどの企業に就職するかで、話はだいぶ変わってくるわけだ。
まずは歴史を学ぶべし
金融業界のなかでも証券会社を志望している学生が多かったので、証券会社の歴史を少し振り返ってみた。1999年に金融ビッグバンの柱として株式売買委託手数料の自由化が導入された結果、それまでは個人の株式売買で圧倒的なシェアを握っていた対面型の証券会社は、一気にネット証券にシェアを奪われた。
その後は、ネット証券どうしによる熾烈な手数料引き下げ競争が行われたが、ある時から競争の対象は、手数料から商品ラインナップの豊富さや、ツールの使いやすさ、ウェブサイトの見やすさなどに変わっていった。
そして、それからしばらくは手数料競争はなかったのだが、昨年の後半から、今度は一部の手数料を無料化するという競争が再開した。そこには、アメリカで新興のFinTechベンチャーが手数料無料化を実施し、業界地図を塗り替えたというこという思いが多少なりとも影響を与えているのだろう。
証券会社をぼんやりと志向していた学生に、証券会社に入ることができたら何をするのか聞いたところ、「最初の数年間は支店で営業をして、金融商品を売ると思います」という回答を得た。
しかし、今後手数料の無料化が徹底されると、証券会社はプラットフォーム化してしまう。つまり、私たちがグーグルやフェイスブック、アマゾンやユーチューブを無料で使っているように、そのなかに証券会社も含まれてしまう。近い将来にそうなると仮定すると、その学生の想定は早々に裏切られることになってしまうだろう。
金融商品を売って手数料で稼ぐというビジネスモデルが崩壊するということは、その他の付加価値を提供して証券会社は稼がなくてはいけないということだ。
金融商品を売って手数料を稼ぐのではなく、その他の方法で稼ぐことになるのであれば、必ずしも証券会社ではなく、FinTechベンチャーやFP(ファイナンシャルプランナー)、IFA(独立系ファイナンシャルアドバイザー)なども、学生たちの就職先の選択肢になるだろう。