現地芸能メディアの報道によれば、ワーナー・ブラザースがAI企業のシネリティック(Cinelytic)と契約を締結。今後、シネリティックが保有するビッグデータやプラットフォームを活用していくとしている。
シネリティックは2016年に設立されたAIベンチャーで、T&Bメディアグローバルなど大手メディア企業からの巨額調達でも注目される新興企業だ。同社は、スタジオや映画制作会社向けに解析ツールを搭載したプラットフォームを開発している。
例えば、同社が提供するプロジェクト管理システムは、映画の制作・流通などバリューチェーン全体の最適化を促進。ビッグデータを利用し、映画興行の効率性向上、コストの削減、また業務の簡易化などをサービスとして提供する。プラットフォームにはその他にも、「タレント解析ツール」、「作品解析ツール」、映画の収益率を向上・予測するための「財務分析ツール」など、映画の成功を最大化するためのさまざまなツールが搭載されている。
ワーナー・ブラザースは今後、ヒット作となりうる有力なシナリオを選定するため、シネリティックと協業システムを開発していく計画だとされている。いわば、ビッグデータとAIの力を借りて市場の流れを読み、効率性や利益を最大化しようという狙いである。
なお、シネリティックの設立者であるTobias Queisser氏は、人工知能そのものでは創造的な決定を行うことはできないとしつつも、膨大なデータの組み合わせから最良の興行収入を保証できる選択肢を提示することで、創造的な決定を助けることができるとしている。
映画産業はあまたある産業の中でも、特にクリエティブ要素に支えられてきた産業だ。もちろん、興行戦略やマーケティング、資金調達や財務設計なども収支に影響を与えるだろうが、最終的に作品がヒットするか否かは、社会を読み解く視点や、制作者のセンス・能力などに大きく左右される。
言い換えれば、人間の感性やアイデア、情熱が力の源泉となっている分野である。その映画の舞台に本格的に人工知能が参入するというニュースは、世の移り変わりを示す象徴的な出来事となろう。
未来的な響きが心地よい反面、懸念点もある。それは、多くの映画作品から“刺激”が奪われてしまうことだ。人工知能は正解がある答えに対しては分析・予測が得意だが、正解がない答えは解くことができない。
人々が熱狂し、名作と呼ばれるようになる刺激的な映画は、シナリオ的にもヴィジュアル的にも、正解を裏切ったり、新しい正解を提示し観客を魅了することで成立することが多々ある。しかし、人工知能がそこまで答えを提示できるかは非常に疑わしい。
個人的には、“売れ線”を正確に分析することはできるだろうが、新たな需要を喚起したり、人々を熱狂させる新たなタイプの作品は生み出すことはできないのではないかとも予想している。
やはり、Queisser氏が言う通り、最後は人間の能力やセンスが試されるのだろう。仮に映画に携わる人々が人工知能の“言いなり”になるだけでは、どこかで見たような映画が量産される退屈な産業になってしまう。映画産業が機械と協業する新たな時代に突入するためには、人工知能の分析結果に臆さない自信、そして能力・感覚を持ったクリエイターや制作・配給会社の登場が必須となるはずである。
連載:AI通信「こんなとこにも人工知能」
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