国際モータージャーナリスト「ライオンのひと吠え」

試乗したジャガーのラリーカー

歴史あるイギリスの自動車業界の伝統を汲む名門「ジャガー」。気品溢れる、洗練されたそのデザインは多くの人々に愛されてきた。2019年秋、同社は社運を賭けてデザインセンターを新設した。開所式に立ち会った筆者がそこで学んだカーデザインの真髄とは。


ブレグジットの交渉が長引いているせいだろうか。輸入や投資、物流、移民がどのような影響を受けるかがわからない事態がイギリスに深刻な混乱をもたらしている。ポンドの価値が下落し、同国から撤退する企業の話が相次いでいる。

その一方で、イギリスにはまだ希望があると信じている自動車メーカーがある。

2019年9月末、英自動車メーカー「ジャガーカーズ」が英ゲイドン市に600億円相当の新しい「ジャガー・デザインセンター」を開設。同国の将来に自信を見せている。元空軍の基地だったこの土地は400万㎡にも及び、サッカー場に換算すると約480個分に当たる。言い換えれば、東京都港区の約5分の1の面積だ。

僕もその開所式に参加してきた。その直後に乗ったジャガーの珍しいラリーカーの試乗についても、デザインセンターの話の後、本稿の後半でレポートしたい。

とにかく敷地の広さに驚いた。それに、建物内に入る自然光と、木と石とガラスがふんだんに採用されていることに感動した。壁が少ない造りも、モチベーションと創造力が湧き上がる、気持ちのいいワーキングスペースにしていると感じた。

この新デザインセンターは、84年の歴史を有するジャガー社専用のクリエイティブ・スペースで、多様なキャリアをもつ280人のデザイナーが集まって最新のプロセスのもとで新車の設計をする。次世代電気自動車(EV)も含めて20車種を一度に手がけられる同デザインセンターには、粘土モデリングマシン、仮想現実(VR)システム、そして「ザ・エレクトリック」という全長11mの4K高画質の巨大デジタルディスプレイの部屋を導入している。

正直な話、このデザインセンターは少しリスキーな挑戦だと思っていた。同センターを建て始める3年前、ジャガーの販売状況は決してよくはなかった。でも、新しいSUVの「E-PACE」とジャガー初のEV「I-PACE」、そして次世代シリーズ「XJ」の計画を発表。よい方向に向かい始めたと思いきや、昨年、ジャガー・ランドローバーで、中国での品質管理の問題が発覚した。加えて、ディーゼル仕様の販売低下の影響で大幅なコストカットが実施された。それでも、ジャガーは従業員を減らさなかった。新デザインセンターの元々のレイアウトを変えないという気概も見せた。

そのおかげで、外観、室内、カラー、トリムなど先進デザインの部署がすべて同じ建物に置かれている。大きく変わったのは、建物だけではない。デザインセンターが開設される数カ月前に、20年間もジャガーのデザイン・ディレクターを務めたイアン・カラムが、その部下のジュリアン・トムソンにバトンタッチしたのだ。

この世代交代は重要だと言える。これについてトムソンは、「顧客のニーズやテイストが変わりつつありますので、ジャガーのデザインも変わるべきだと思います」と話す。

文・写真=ピーター・ライオン

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