時短では手に入らない、料理における「熱の力」とは

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今年の日本は暖冬とはいえ、風邪やインフルエンザの声も聞く時期となりました。僕の住んでいるニースは、アルプスの麓が裏山にあたります。もうしっかり雪で覆われているので北風は非常に冷たいのですが、日中は太陽が照り続けていて、さすが地中海、非常に心地よいです。

気づけば2019年もあとわずか、一瞬の油断で年末年始に体調を崩さぬよう、気を抜かず、かつ少し心にゆとりを持って行動をしたいものです。

料理=調理時間+加熱時間

さて、こう冬も深まると、おでんやポトフ、鍋や煮込みなどの温もりが恋しくなります。

ただこれらの料理は時間をかけて火を入れなくてはならず、またある程度の量で作らないと美味しくできないため、一人暮らしではなかなか作りづらい。働きながらでは時間をとるのも難しいため、「手間暇かかるものは外で食べる」という人も多いのではないでしょうか。



しかし、本来は冬に食べる家庭料理の定番。出汁やブイヨンの漂う部屋というのはなんとも不思議な安心感に包まれます。嗅覚から脳を満たせば食欲を抑えることができるとも言われているので、この香りを味わうことは過食を控えることにも繋がります。じっくりと熱が伝わり、素材の味の引き出された料理の滋味は、五臓六腑へ染みわたります。

かつて読んだある調査結果によると、主婦が1日に料理にかける時間は1日平均「1時間半」程度。その回答者の約8割が「できれば短縮したい」と思っているとのことでした。また2012年のクックパッドの調査によると、そもそもメニューを考えることが大変で、「レパートリーの少なさ」に悩んでいる人が多いという結果でした。

こんな現状で、2時間、3時間以上もかかるおでんやポトフを作るのは難しいように思えますが、料理人からすると、そこに必要なのは「発想の転換」です。

料理は、調理時間と加熱時間と分かれます。ここでいう調理時間とは実際に手を動かし作業をした時間のことで、加熱時間とは鍋を火にかけてコトコト煮ていた時間を指します。

僕が世界を回って感じていることの一つに、火を便利に簡単に扱うことができるようになった人類は熱を使うことを少し軽く見ていて、そのせいか、素材に火を入れる意味を忘れ、加熱時間が減ってしまいました。実際、時短を促す系の調理食品には「フライパンで5分」「3分茹でるだけ」など、火に触れる時間の短さをうたうものが多いように思います。

人類は火を扱うことで進化したと言われますが、テクノロジーの進化により、その火を軽視するようになり、結果それが人類を退化させているのではないだろうか、というのが僕の考えです。
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文=松嶋啓介

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