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2020.01.08 07:00

ヤフー社長から東京都副都知事に。宮坂学が語る「2代目の仕事」|トップリーダー X 芥川賞作家対談 第1回(前編)


上田:ヤフーさんは「週4勤務」でも話題になっていた記憶があります。

宮坂:マイクロソフトでも、週休3日の試験導入で生産性が爆増したという発表がありましたよね。

上田:おそらく、一時的には生産性は上がるんですよね。でも、どんどん戻っていくんじゃないか。

宮坂:僕は、人類の年間労働時間の長期記録を見たことがあるんです。産業革命くらいまでずっと1600時間くらい、それはおそらく、日没があるからだと思うんですよね。夜は働けないから「残業」できない。ところが産業革命で、急に光を手に入れて、労働問題もなかった時代なのでもうとことん炭鉱や工場で働く。ここで年間労働時間がすごく上がりましたよね。

その後、いろいろな問題が起きて「工場法」ができ、テクノロジーの発達もあって労働時間が減り、生活は逆に非常に豊かになった。そんな人類社会の発展史のパターンでいうと、テクノロジーによって労働時間が減り、生活水準が上がる、というサイクルが止まるとはあまり思えないですね。だから、週休3日制が進み、生活水準も上がるというのが、必然の流れかもしれないです。

上田:僕の小説『ニムロッド』では仮装通貨やAIについても扱っていますが、僕は文学が、未来社会とかシンギュラリティといったテーマにも介入できると思っています。

人生が長くなることで総労働時間が伸びる。加えて、テクノロジーが老いをカバーしそうな勢いです。加齢によって衰える視力や記憶力は外部デバイスに任せて、高齢者は経験値とか判断能力で貢献し続ける時代になるでしょう。

シンギュラリティについても、人間の仕事は判断する能力や権限に集約されていきますから、どこまでを人間側の取り分にして、どこまでを機械側に任せるかがカギになってくる。そして、実はそこには倫理的空白が生じる。

『ニムロッド』でもNIPT(新型出生前診断)というテーマを扱いました。子供の遺伝子が生まれる前にわかることによって、人間は新しい判断をしなくてはならない。テクノロジーが生むそういった「倫理の空白地」、それを埋めたい時の拠り所とか、ちょっとした「視差」をもたらすことが、文学の役割かなと思います。

文学の強みは「想像力」

宮坂:文学の強みはなんといっても「想像力」だと思う。半歩、一歩先の社会でテーマとなるだろうことを扱える。想像力の世界の、その「先取り」の可能性がすばらしい。作家の空想の中で何かが現実化していくパターンが面白いと、僕もつねづね思っていました。



上田:僕が書いているのは未来予言書ではないし、この先を言い当てることを目標としているわけではないんですが、ただ、「このままいったらこうなるんじゃないか」というところは書きたいんですよね。実際はおそらくそうはならない。僕は「ハズすための予言」と言ったりしますが、とはいえ、このままの力学で進んでいくと、とても「気持ちの悪い状況」が待ち受けているかもしれない。そういうことが言いたい。

人間の自由平等を突き詰めていけば、「人間を1人にすればいい」に到達する、それが現代の究極の価値観かもしれない。でも、「それだと気持ち悪くないか?」と提示することによって逆流して「今」を考えれば、次の時代への入射角が変わってくると思うんですよね。

その現時点での集大成が『キュー』という作品です。読者の期待に応えるだけの想像力を発揮できているかどうかはわかりませんが、これからも発信していきたいと思っています。

宮坂:いくつかの小説、あるいは孫(正義)さんも「AIとは予測マシーンだ」と言ったりしていますが、予測と判断、意思決定は違う。そして、判断や意思決定を行うのは当面は人間であり続けるんじゃないでしょうか。(「後編」に続く)

構成・文=石井節子 写真=帆足宗洋 サムネイルデザイン=高田尚弥

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