宮坂:僕は「両親ともに戦前生まれ」という最後の世代だと思うんです。母方の父は母が小さい頃に戦死して、戦後、母は学校に通うのも大変だったみたいです。親父は長野県の山奥の10人兄弟家族、典型的な子だくさんで、もう働くしかないみたいな環境だった。父も母もともに中学しか出ていないのですが、それにもかかわらず、勉強好きだったみたいなんですよね。
僕には印象に残っているある原体験的な記憶があります。小学校の頃、家の奥の押入れの箱に、6つ上の姉の、中学の教科書がぎっしり入っていたんです。きっと親父が読んでいたんでしょう。子供の頃、勉強ができなかったから。これを見て、子供心にグッときましたね。
そして、勉強ができることは実にラッキーだと思いました。日本でもほんの数十年くらい前は、学びたくても学べない人がいたんだなと。
「本は1トン読め」
宮坂:そうですね。マイクロソフト日本法人の社長だった成毛眞さんがおっしゃっていたことで、それを聞いて僕も部下にもよく言ってたんですけど、「本は1トンくらい読んだほうがいい」と。いい本を読むに越したことはないでしょうが、なんでもいいから1トン読んでおけば、まあまあものになるって話だと思うんですよね。
1回、1冊何グラムくらいか、秤で測ったことがあるんですが、それを元に計算したら、週に1冊、30年くらい読み続ければ1トンを超えるんです。社会人1年生から始めれば、50代前半で達成可能な計算ですね。
上田:宮坂さんは今、何トンくらい読まれてますか。
宮坂:もう1トンは超えたかもしれないですね。
自分の中ではある種のバロメーターがあって、調子がいいときは小説が読めるんですよ。今はあまり読めない、メンタル的に。おそらく転職してストレスかかっているからだと。ビジネス書や、ノウハウ的な、「答えを探す」目的で読むタイプの本は入ってくるんですが。
上田:小説には「答え」がないですからね。
宮坂:はい。その代わり、僕はもう、夢中になったらもう一気に読みます。毎日1章ずつ読むとかいうのは、絶対できないですね。
それから、管理職になればなるほど悩ましいことが増えてくるので、「小説に向いている心」のコンディションと「向いていない心」のコンディションが分かれてきた感じです。
「2代目の仕事」とは
上田:行政の世界に転身されて、プレッシャーも大きいと思いますが、いかがでしょう。
宮坂:まあ単純に、新鮮ですよね。これまでどんなに色々なことをやってきたように見えても、しょせん「ビジネス大陸」の中だったなと思います。別の巨大な大陸、「公務員大陸」を知らなかったんです、遠目には見えていたんですけどね。行ってみるとやっぱりすごく巨大で、新大陸という感覚がすごい。
実はヤフーを辞めた時、完全に引退することも考えていました。ネット業界では、50歳で引退は早くない。僕は44歳で社長になったんですが、なった時にいくつかやろうと思っていたことがあって。というのも、自分はネット系企業には珍しく、創業社長、オーナー社長ではなかった。亡くなった井上雅博さんが創業社長で、僕は2代目でした。
それで、2代目の仕事ってなんだろうと沈思して、行き着いたのが、ちゃんと「世代交代」できるようにすることだろう、ということでした。
実は、色々歴史の本とか読んで見たんですけれど、「2代目」はわりと影が薄い。源頼家、足利義詮、徳川秀忠。
上田:確かに。家光は知っているけれど、2代目は「中継ぎ」みたいで、印象が薄い。