宮坂:創業者がいなくなるってすごいインパクトじゃないですか。でも、その中でなんとか、創業者のことを直接知っている直臣(じきしん)が次の、創業者を知らない世代に渡すことができれば、3代目、4代目以降は安定して、イケるかなと思ったんです。
もう1つは、社長になったときにいろいろな社長の話を聞きにいって印象的だったのが「社長の仕事は、次の社長をつくること」だったんです。だから早く、次の社長を作る仕事をしようと。その際に、自分よりも少なくとも1歳は若い人を後任社長にと決めていたんです。自分は44歳で社長になったから、後任は43歳以下がいいなと。そうしないと、会社の若さやスピードをキープできないと思ったからです。実際、就任時43歳だった現社長(川邊健太郎)に引き継げたのでよかったです。
上田:ちなみに今回のヤフーとラインの統合についてどう思われますか?
宮坂:川邊社長の素晴らしい仕事です。自分が社長の時に、できなかったことです。大きな国には大きなITの会社がある。ヤフーとLINEという、各々、国の代表的存在の会社が一緒になって、より大きいことに挑戦する、グローバルレベルで存在感のある会社ができるというのは、すごく大事なのではないでしょうか。
合体してすらまだ、世界の大企業とは格差があるかもしれない、でもグローバルスケールで挑戦する「構え」を構築できた。私が社長の時はなしえなかったことだけに、それをここまで持ってきた新社長はすごいです。
まるで「経営会議」のような編集会議
宮坂:『キュー』は、スマートフォンで純文学の長編小説を連載で読ませるプロジェクト、しかも創刊115年という由緒正しい文芸誌『新潮』との同時掲載という前代未聞の試みでしたが、ネット連載というのは紙と比べた時、何が違いましたか?
上田:そうですね。まず、このメンバー(書籍『キュー』の奥付に印刷されたスタッフの長いリストを見ながら)ほぼ全員、20人超えで会議をすることがあったことですかね。ふつうは作品を書く時って担当編集者と2人の世界、せいぜい、同席しても編集長くらいですから。 その人数の中で、「俺がなんか言わないと始まらない」みたいな感じだったので、面白かったです。
宮坂:会社の経営会議か、映画づくりみたいですね。
上田:この作品には、「ジェネラティブアート(コンピューターのアルゴリズムが自動生成するアート形態)」を手掛ける「Takram」という会社も絡んでいました。劇中の設定で、各章に「パーミッションポイント」という、シンギュラリティの9個の特異点をジェネラティブアートの絵で表現していく仕掛けもあったので、普通の締め切りの10日くらい前に原稿を完成させて、みんなで共有してつくるっていうのをやっていた。とても大変でしたね。
宮坂:それはなかなか過酷だ。会社の経営もしながら、いったい小説はいつ書くんですか。
上田:基本的に朝、出勤前の5時半から7時半くらいまでです。習慣化するのが大事だと思っています。
「別の大陸の地図を知ること」の強み
宮坂:会社と文学、両方やることの意味はなんでしょうか、最近は「副業の勧め」とかよく言われていますが。
上田:さっきおっしゃった、「ビジネス大陸」と「公務員大陸」があるとすると、小説だけ書いているのじゃなくて、もう1個の業界というか、「大陸」の地図をぼんやりとでも知っていられるということは利点だと思います。未知の大陸を、点だけでなく「座標」でとらえられると、理解できる度合いが大きくなる。
宮坂:なるほど。ヤフーでも、僕の時は、副業やボランティアは良いよと推進していましたが、副業には実はそんな利点があるんですね。