世界38カ国、800万人が愛読する経済誌の日本版

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年間のコンテンツ制作費に約1兆円をかけるネットフリックスは今年、本格的に書籍マーケットに参入した。自国以外の国で発行された書籍を各国のプロデューサーに映像化させ、世界中のサブスクライバーに向けて発信するプロジェクトを立ち上げたのだ。

同社のオリジナルシリーズ・バイスプレジデントであるマット・シュネルは、米業界誌「パブリッシャーズ・ウィークリー」の取材に対し、「書籍に比肩しうるコンテンツの拠り所はない。本は、世界市場に通用する信じがたい可能性や風景、神話をはらむ」と話している。

そんな書籍の分野において、多くの作家たちの才能を発見、発掘し、世に出し続けているのがコルク代表・編集者の佐渡島庸平氏だ。代表作である『マチネの終わりに』は、今年映画化もされて話題となった。

めまぐるしく動くコンテンツの世界で第一線をいく佐渡島氏の目線で、ビジネス書 BEST3を選ぶとどうなるか。未来志向、改善思考の強いビジネスパーソン向けに、新年の「羅針盤」となり得る3冊を選んでもらった。

コルク代表・佐渡島庸平
コルク代表・佐渡島庸平(撮影:小田駿一)

1.「目的思考」で学びが変わる—千代田区立麹町中学校長・工藤勇一の挑戦
 (ウェッジ、2019年2月刊、多田慎介著)

       
「目的思考」で学びが変わる—千代田区立麹町中学校長・工藤勇一の挑戦(ウェッジ刊2019年2月刊、多田慎介著)        

「いま、子どもを入れたい中学校No.1」ともいわれる千代田区立麹町中学校、工藤勇一に関する書籍。公立校でありながら、教育界では珍しく、ビジネス的な戦略も採用し、画期的な改革を続々と繰り出して話題の人物だ。同書では、テレビ東京「カンブリア宮殿」にも登場した「宿題なし・中間期末テストなし・クラス担任なし」を通して目指すものを徹底取材で探っている。

「コルクは、『生み出した作品を世界に運び、後世にも残したい』と創業した作家エージェント。その行動指針の1つ目は『やりすぎる』だが、やりすぎるためには正しい目的意識を自分の中で持つことが重要である。しっかりと目的思考になるためには、どのように目的を持ち、目標を立てるのか、それを教えてくれる1冊で、子育てや教育だけでなく、自分のためにも役に立つ」(佐渡島氏)

冬休み、子供の顔を見ながら、子育て、教育書として読むのももちろんいいだろうが、それのみならず、新しい年の仕事の目標について考える際にも格好の指針書となりそうだ。

2. Insight(インサイト)──いまの自分を正しく知り、仕事と人生を劇的に変える自己認識の力
 (英治出版、2019年6月刊、ターシャ・ユーリック著、中竹竜二監修、樋口武志訳) 


Insight(インサイト)――いまの自分を正しく知り、仕事と人生を劇的に変える自己認識の力 (英治出版 、2019年6月刊、ターシャ・ユーリック著、中竹竜二監修、樋口武志訳) 
             
「仕事上の成果や良好な人間関係のカギは『自己認識』にある」という前提にたったビジネス書。真のインサイト(内省、自分と向き合うこと)に至ることで自分自身の行動を変え、周囲との関係も変革する方法を明らかにする。フォード・モーター・カンパニー元CEOのアラン・ムラーリーも推薦している1冊だ。

「コルクの行動指針の2つ目が『さらけだす』。やったことに対してフィードバックを正しくもらい、自分の行動を変えるためには、この本がとても有効的である。『インサイト』によって汝自身を知らない限り、うまくさらけだすことはできない」(佐渡島氏)

著者は過去何千人ものリーダーをコンサルティングした経験を持つ、心理学とビジネスの両方に精通した組織心理学者。「まずは汝を知れ」を説く本書で自分の心と向き合い、整った心で1年の計を立ててみるのもいい。

3. 他者と働く──「わかりあえなさ」から始める組織論
 (NewsPicksパブリッシング、 2019年10月刊、宇田川 元一著)


他者と働く──「わかりあえなさ」から始める組織論 (NewsPicksパブリッシング、 2019年10月刊、宇田川 元一著) 
          
職場のすべての「厄介な問題」を解決するための実践的組織論。経営戦略論、組織論を専門とする経営学者が、論破でも忖度でもなく、相手の「ナラティヴ(narrative)に入り込んで」新しい関係性を構築するための「対話(dialogue)」の方法を説く。

「コルクの行動指針の3つ目は『まきこむ』。他者と働くためには自分の意見を正しく伝えるのではなく、他者の意見を正しく聞くところから全てが始まるということが非常によくわかる本で、まきこみ方の勉強になる」(佐渡島氏)
                  
「ダイバーシティ」や「多様性」といったキーワードが多く聞かれた今年だが、それこそ「多様」な価値観を持つ他者との共存という「ノウハウが通用しない問題」に斬り込んだ啓発書としても読める。


今回、選書にあわせて、コンテンツ業界の動きについて聞くと、佐渡島氏は「日本以外の国はコンテンツが世界展開していく流れにあるが、日本のコンテンツだけが内向きな感じで進んでいくんじゃないか、という危機感があります」と話す。

実際、近年、英米出版社のベストセラーリストにおける「翻訳書」の割合は増加している。書籍関係者によれば、毎年ドイツで開かれる世界最大の書籍見本市「フランクフルト・ブックフェア」でも、今年は英米の出版社が、他国の書籍(原稿)を翻訳出版する旺盛な気配が感じられたという。

来年以降、日本の出版業界も、コンテンツを世界に求める、あるいは世界から「輸入したい」と乞われるコンテンツを発信する「世界展開」の動きが加速していくのか。それとも「内向きな」2020年となるか。注視して行く必要はありそうだ。

構成=石井節子

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