ネット創世記の中心人物 「竹中直純」とは何者か?


「日本にはIT企業の経営者はたくさんいるけれど、僕は非常に数少ない、技術者であることを自認している経営者なんです」という言葉どおり、竹中は多くの会社の経営にたずさわりながら、50代に達した今でもコードを書いている。

さまざまなプロジェクト向けに複数の開発チームを抱えているものの、たとえば前述のBCCKSで10月からの消費税率引き上げに対応するための修正プログラムは自分で書いた。また1bit研究会という学会で、巨大な音楽ファイルを効率よく扱う方法を発表し実装した。「コードを書くのが好きで、やっていて楽しいし、才能があると思っています。それ以外にはあまり興味がない」というくらいだ。

すでに紹介したように活字やテレビといったオールド・メディアにも積極的に関与している理由も、また彼らしい。



既存メディアは、なぜネットを拒否したのか

「自分は昭和時代の各種メディアというか、カルチャーに育てられたという自覚が、すごくあるんです。だから、ネット黎明期に各メディアのネット対する拒絶反応が強かったことが、もったいなくて仕方なかった。堀江(貴文)さんのフジテレビ買収は潰れちゃったし、書籍もベストセラーは電子化が遅れるといった状況がいまだにある。

インターネットは空気とか水のような我々の生活に不可欠な手段、材料なのに、既存メディアはいまだに特別扱いしていることが多い。それなら旧メディアに世話になって、インターネットの誕生にリアルタイムで立ち会った自分が、自腹で良いと思えるサービスを根気よく続けていこうと。続けているうちに、なにかしら役立つタイミングが来ると思っています」

竹中には既存のメディア以外でも、必要な変化を拒み、自由を制限し続けるような相手は、もどかしく感じられてならないようだ。

「産業革命以来の200年は常に移動の自由が向上してきた200年です。それなのに日本ではこの20年、移動の制限・制約が逆にキツくなってきている。東京に住んでいる僕の場合、福井で独り暮らししている母親が具合が悪いとなると、新幹線を使って片道1万4000円くらいかかりますが、台湾の台北から高雄は5000円程度だし、パリとベルリン間さえ探せば同じ程度の料金の切符があります。

親孝行をするのに2倍、3倍のコストがかかる。さらに外国人だけ優遇する不思議な仕組みがある。日本のモビリティの悪さは世界で見れば例外的に異常ですよ。アマゾンの送料無料作戦やグーグルの位置情報サービスなども『移動しなくてよい自由』を追求していると考えると、最近の技術は(リモート)コミュニケーションを含めた移動の拡張、移動の概念の拡張のためにあるとも言えるんです。スマホのパケット価格などでも、日本ではその自由が経済的理由により制限される方向に行ってしまっています」

こんな率直かつ的を射た現状認識が、問えば政治や社会など、やはり幅広い分野について繰り出される。

ストレートすぎたり的確すぎたりするため、そのすべてをここで紹介するのは控えるが、ひとつ明かせるのは、彼と話していると、笑いが止まらないのに、同時に世間に対して腹が立ったり、背筋が凍りついたりするということだ。

現代社会の激しく可笑しな現実を、説得力を持って客観的に語ることができる竹中は、間違いなく「インターネット文明」の洗礼を受け、世の中にその考えを説き続ける稀少な存在だといえる。


たけなか・なおずみ◎1968年、福井県生まれ。大阪府立大学総合科学部中退。技術要員として慶応SFCやJTのネット研究所などを経て、成り行きでシリアルアントレプレナーとなる。現職はディジティ・ミニミ、未来検索ブラジル、オトトイ、ブックス各社の代表取締役、日本文化デザインフォーラム副代表幹事など。

文=岡田浩之 写真=柴崎まどか

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