そして、すでに触れたように、検索、動画共有、音楽配信、SNSといった分野に、竹中は早い時期から取り組んできた。これらはグーグル(ユーチューブを含む)やアップル、フェイスブックといった世界最大手がそれによって成長し、主導的な地位を占めた領域でもある。
あいにく、こうした分野では現在、GAFAに代表される米国勢のサービスが日本国内でも主流となっている。この現実を竹中は冷静に、というより醒めた眼で見ているようだ。
自身の事業の拡大は重要ではない
「僕の個人的な好みは、プラットフォームを構築することです。それはプラットフォームを確立して広く、効率よく、永く続けていくのがサービスだと考えているからですが、日本ではプラットフォームに対する認識が薄い。義務教育でも高等教育でも公共という概念を教えないし、経営者も技術者もプラットフォームの重要さに関心を持つことが少なかった。習って、真似できるものだとも思っている。本質的に『真似できる=先行者が居る』と負けやすいということもあまり認識されていません」
電子書籍を例に挙げれば、縦書きやルビといった日本語文化の特殊性に拘り、「横書きにしか対応できない規格やデバイスなんかダメだ」という理由で初期に大きな投資ができなかった。
日本の各メーカーが、周りの様子をみながら中途半端なサービスやデバイス販売するもすぐに撤退した結果、世界から大きな遅れをとり、現在はアマゾンKindleの一人勝ちと言ってよい状態だ。
このような差はニコニコ動画とユーチューブの間にもあり、誰もが参加することのできる透明なプラットフォームが大切で、そういうものを作ろうという意識が日本には元々存在しないと感じていると言う。
「ニコニコ動画はコンテンツを懐でまともに育てるという方針でした。それもひとつの戦略だけど、乱暴に言えば『ほっとけば勝手に育つだろう』と、信念のあるプラットフォーマーが長期に渡って維持するという方針もまた、有効なのです」
もちろん、竹中は自らの事業がGAFAのライバルにまでは拡大していない理由として、こうした日本の“特殊性”だけを挙げるわけではない。自分自身の欲のなさも、包み隠すことなく笑顔で認める。「いろいろな技術を開発し、いろいろな会社を経営していますが、マネタイズはどうしているんですか?」との問いには、こう答えた。
「よく受ける質問ですが、いつも一言、『下手です』と答えています。経営者だからお金が重要な要素、重要なツールだということはよくわかっていますが、トータルで赤字でないかぎり生きていけるというのが基本的な考えだから、上場して何十、何百億というお金を預かるような路線は目指していません。兜町を回ってIRに時間を割いて……ということは若い頃から自分には絶対できないだろうと考えていました。
それに自分で書いたプログラムが普通に他社に開発依頼をすると何千万円、何億円かかるはずだ、ってことも感じていたので、自分の手元には開発力という目に見えない無限の財産があると勝手に思っていました。ただし大きなお金の威力はさすがにこれだけ生きていると実感しています。プラットフォームを標榜するなら規模の拡大に経済力が必要な問題にどう対処するかをあと何十年かで考えないと、とは思っています」