「マイノリティをビジネスに利用するな!」批判の声も
チャーター便運航後、日本航空は任意団体work with Prideが策定する「PRIDE指標」で4年連続となる最上位の「ゴールド」に加え、2016年に続き2度目の「ベストプラクティス」を受賞した。
取り組みが高く評価される一方で、運航前には「マイノリティをビジネスに利用するな」などといった批判の声もあった。そんな意見に対し、杉山は語る。
「僕はビジネスとして考えることも大切だと思っています。LGBTは特別ではなく、みなさんのすぐ隣にいる生活者であり『お客さま』の中に存在する。そこに企業がビジネスとしてアプローチすることは自然なことで、その認識を浸透していくことができる」
一方で、最初は社内でもためらいがあった、と小田は打ち明ける。
「取り組みがお客さまにどう映るか心配し、反対する声も社内で挙がった。しかし同時に、後押ししてくれた人も沢山いました。ならばとことんやろう、と覚悟を決めました」
企業が取り組むことで、LGBT「ALLY(アライ)」の存在が明るみになり、当事者が安心して暮らせる社会になるのでは、と杉山は願う。チャーター便名にもある「ALLY(アライ)」とは、LGBTを理解し、支援している人たちのことだ。その中には当事者とそうでない人も含まれる。
杉山は言う。「『なぜそこまでやるんだ』という声もあるが、むしろ『やりすぎて』欲しい。セクシュアリティは目に見えない。当事者はもちろん、ALLYの方々も目に見えないです。だから企業さんにやりすぎなくらい、その人たちが『ここにいますよ』と言って欲しい。いつか取り組みが特別でなくなるために、一緒に関わっていきたいです」
チャーター便参加者の集合写真
企業は試されている
東京五輪を目前に控え、日本社会全体に広がりを見せる多様性の流れ。その波に乗れるか、企業は「試されている」と小田は語る。
「work with Prideの参加企業は年々増えているが、その多くは自社教育の程度で止まってしまっている。『もうひと転がし』する力が求められていると感じます。商業ベースと言われてもいい。本年のチャーター便は社会貢献としての位置づけで運航をしましたが、採算の取れる事業を通じ、できることを試す企業が増えれば世の中は大分変わると思います」
杉山も、企業のいわゆる「ダイバーシティ担当」から相談を受けることが多かったという。
「多様性促進のために『何かやれ』と言われて困っている、という方が多かったですね。それは、2015年に施行された渋谷区の多様性条例を起爆剤に、LGBTに対する企業の取り組みが一気に増加したためだと感じます。企業競争を伴う『事業絡み』の問題と違って、多様性化への努力については、企業同士がノウハウをシェアできるのでは」
小田も「4年前だったらできなかったかもしれない。思いがある人をサポートする雰囲気が、今の日本の産業界にはできてきたと感じます」と言う。
トランスジェンダー活動家の杉山文野氏(写真左)と日本航空人財本部長の小田卓也氏(写真右)