ジョコビッチは今年7月、ウィンブルドンの決勝でロジャー・フェデラーと対戦。大会史上最長記録となる4時間57分の熱戦を制し、優勝を飾った。今後長らく語り継がれることになるであろうこの名勝負について、米科学技術メディア「One Zero」は、その裏側にある、AIを活用した競技分析のアプローチにフォーカスを当てた。
データ分析用ソフトウェアを開発する米企業RightChainのエド・フレーゼルCEOは、ジョコビッチの戦略分析を担うクレイグ・オシャネシー(Craig O’Shannessy)氏と協力。AI用いた競技データ分析&カスタム戦略ソフトウェアの開発にいたった。なおオシャネシー氏は、もともと競技分析を行う「ブレイン・ゲーム・テニス」という企業を運営している。
熱烈なテニス愛好家であるフレーゼル氏は、自身の能力をテニスに活用できるのではないかと考え、物流など企業のサプライチェーンを最適化するソフトウェアの発想を、テニスの競技分析に採用。プレイヤーだけでなくボールの動きに着目し、出発点(ボールが放たれる場所)と目的地(ボールが落下する場所)の関係性を分析する新しいテニス競技分析プログラムを研究し始めた。
フレーゼル氏らが開発したAIソフトウェアは、コートをサーブエリア12カ所、バックコート(ベースライン付近)8カ所に細分化し、各エリア別のボールの流れと勝率などを算出。また、失敗、サーブと着地地点、攻撃可能範囲など、競技における25の主要要素を収集・分析・可視化し、コーチや選手が検索できるようにした。
その結果、既存の競技分析ソフトウェアよりも、より詳細な競技データや勝敗を分ける“気づき”を選手に提供することができるようになったという。
もちろん、ジョコビッチの活躍は自身の能力に負うところが大きいだろう。また、AIを使った競技分析プログラムがどこまで選手の力を高めているかについて詳細な報告やレポートはなく、選手自身が効果に言及した例も見当たらない。それでも、プロテニスのトレーニングにAIなど最新の科学的アプローチが使われ始めているという事実には、大いに注目したいところだ。
勝負の世界において“強さのネタばれ”は避けたいところだろうが、スポーツ関係者からAIのユースケースが語られる日が来ることを楽しみにしたい。
連載:AI通信「こんなとこにも人工知能」
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