「企業の価値は、時価総額からフォロワー数へ」広告のトレンドを予測する



(写真)左:林智彦 右:原野守弘

ソーシャルグッドの次のトレンドとは


──これまでソーシャルグッドというと、万人受けする意見を発信をしていましたが、今年のカンヌライオンズに関しては賛否両論、意見がわかれる問題に対して、特定のポジションを取りメッセージを強く発信しているように感じました。

ナイキの「just do it」30周年キャンペーン「dream crazy」という作品がカンヌライオンズでも話題になりました。元NFL(米プロフットボールリーグ)選手のコリン・キャパニックが、人種差別への抗議から国歌斉唱中に膝をつく運動を始めた。黒人の人権を主張する「Black Lives Matter」が盛んな時で話題になりました。心情を貫いたということでナイキは彼を広告に起用したところ、同社のシューズが焼かれたり、トランプ大統領がツイッターで批判したりと波紋が広がりました。ただ、同社の株価はその後急上昇し、作品も評価されました。

:それは国によるんだと思いますね。アメリカなどでは、企業がどちらのポジションにつくのか、政治的イデオロギーも含め選ばなければならない状況にある。日本だと、多数派のポジションに立たないと支持はされにくいと思います。

原野:あえて冷めた見方をすると、結局カンヌでグランプリを競うような作品は、革新性を評価される。そういう作品をつくるクリエイティブな人たちも、基本的には欧米社会のなかでは、進歩主義的で人間主義的な人たちです。

コンペティションの優劣の軸は、時代によって変わる。企業はモノを売るだけの時代から、ソーシャルグッドへ流れた。でも、現在のように多くの作品がソーシャルグッドで埋め尽くされると、ソーシャルグッドのなかでも、新しくてかっこいい軸探しが始まる。

この2年のトレンドでいえば、特に「ブレイブネス(勇敢さ)」が目立つ。この勇敢さを示すためには、世間が憎むべきものに対し先頭に立つことになる。ただし、そうすると特に保守的な層からは批判されることになる。

「ブレイブネス」の次の軸はきっと「ジェネロシティー」。日本語で言う寛容さです。憎いものを憎い、というだけでなく、よりインクルーシブにする。おそらく来年のカンヌライオンズはそうなるでしょうね。


(写真)和田夏実

和田:現地でよく言われたのは、日本には課題がないということ。確かに、ブラジルのようにレイプが多発し、死活問題になっている国とは課題は違う。でも、実感としては日本にも年金にしろ、介護にしろさまざまな課題がある。その課題に対し、日本でポジションを取りにくいのは国民性としてあると思います。

:介護などのシニアの課題に関しては、日本は世界に比べアドバンテージがありますね。

原野:ただ、日本の課題を扱ってもカンヌで評価されるかというと難しい。14歳の女の子が無理矢理に結婚させられている社会の課題に比べると、世界的に見て課題が小さく見えてしまう。
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文=本多カツヒロ|写真=曽川拓哉

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