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2019.09.28

顔で改札を通る時代へ 中国の地下鉄駅に顔認識・決済システム続々

画像はイメージ(Shutterstock.com)

中国の各都市では、人工知能(AI)を使った顔認証技術を地下鉄駅に導入する動きが顕著になり始めている。

「ハードウェアのシリコンバレー」と呼ばれる深センでは、まず11号線の18駅で、利用料が無料となっている60歳以上の利用者を対象にシステムを稼働開始した。いわゆる「顔認識シルバーパス」といったところだろうか。今後は、除隊軍人など利用料を免除されている層にまで利用を拡大。対象者に関しては乗車券の提示などは必要なく、顔認識で自動的に改札口を通過できるようになるという。

なお、同システムは深セン市の地下鉄とテンセントが共同開発したものだ。テンセントは中国社会の決済インフラとなって久しい「WeChat Pay」の運営元だが、今後、地下鉄の利用が決済システムと連動していくことは想像に難くないだろう。

これとは別に、深センでは3月から福田駅にて、乗車券や交通カードの代わりに自分の顔を利用して地下鉄を乗り降りできるサービスを試験実施している。出入口に設置されたタブレットのようなスクリーンに自分の顔を近づけると、連携したアカウントから交通費が自動的に決済される仕組みだ。

なお、地下鉄における顔認識決済を使用するためには、利用客が自身の顔を事前に登録。決済手段と連携しなければならない。

現在、深セン市以外にも、山東省の省都である済南市、広東省の省都・広州市など、中国のおよそ10の都市でAIシステムが地下鉄駅に導入されているという。済南市では、4月から事前登録を済ませた約500人の地下鉄利用客を対象に、顔認識技術を活用した決済システムを稼動。広州市では、9月からふたつの地下鉄駅で顔認識技術を活用した決済システムを試験的に運用している。

その他にも、上海市、山東省・青島市、江蘇省・南京市、広西チワン族自治区・南寧市などでも、AI技術を使った地下鉄駅決済システムのモデル事業が実施されているという。

中国ではWeChat Payなど、QRキャッシュレス決済が生活の隅々まで浸透して久しいが、数年間から顔認識による決済が普及していくとの見立てが現地関係者の中で強かった。ここにきて、地下鉄というインフラでの導入が加速している形だ。

日本の場合、空港など一部の施設では利便性向上のために顔認識システムが導入開始されている。しかし、電車や地下鉄に関してはSuicaなど非接触型のICの利便性が高く、顔認識システムへの代替は可能性が低いだろう。とはいえ、中国での先行事例をベースに、顔認識システム導入のメリット・デメリットを見極めていくことは有用となるかもしれない。

余談だが、中国現地の関係者からは、中国社会の決済インフラとなったWeChat Payに規制が入るかもしれないという“噂話”もあった。入金やチャージを行う銀行側のメリットが担保できないという理由からだ。

WeChat PayやAlipayなどメジャー決済アプリなども併用できる、新たな銀行主導のアプリが登場する可能性もあるとする。いずれにせよ、日本で大きく注目される中国のキャッシュレス事情だが、その内情も刻一刻と変化を遂げていきそうだ。

連載:AI通信「こんなとこにも人工知能」
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文=河 鐘基

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