ベンチャー企業は、創業初期に必要な資金を確保し、その後、利益を上げて資金を確保するまでには相当の期間が必要です。その間のアーリーステージにおいて発生する資金ギャップを通称「死の谷」と呼びます。ここで多くのベンチャー企業が倒産リスクに陥ります。
ベンチャー投資という観点で見ていきますと、一般的にシードステージは必要資金も少ないので少額出資で済みます。仮説検証はほぼ行われていないのでリスクは高いですが、その分この時点での企業価値も低いので10社に1社成功するだけでも投資家は莫大なリターンを得ることができます。
ミドルステージ以降はビジネスの仮説検証が終わっている段階なので、資金投下することによる事業スケールが予測しやすい段階です。リターンの倍率はシードほど大きくはありませんが、その分成功確率は高いので、大きく出資することができます。
一方アーリーステージでは、まだ仮説検証中なので、リスクはミドルに比べれば高く、シードに比べれば企業価値も上がっているので、リターンも少なく、かつ必要な資金量も多くなります。つまり、このステージで出資するには、その事業に対する目利きが必要であり、投資難易度が上がっていると言えます。その結果、日本では死の谷が深くなってしまっています。総務省の報告(※3)にもある通り、日本のベンチャー企業にとって、死の谷を乗り越えることは大きな課題です。
これを乗り越えるには、死の谷を克服した起業家は何を考え、どう動いたのかを明らかにすることにより、可能となるのではないかと考えました。そこで、死の谷を克服した起業家8名にインタビューを実施しました。インタビューにて質問した内容は以下3つです。
・なぜ自社をここまで成長させることができたか?
・なぜ死の谷の克服に成功することができたか?
・成功することができた起業家とそうではない起業家の違いは?
そこで得られた回答を基にオープンコーディング(※4)を行い、彼らに共通する14個の項目を導出しました。その結果を用いて、彼らがどのフェーズで何を確認しているかを示した表が以下となります。
表2 共通する14個の確認項目
なお、起業家へのインタビューを行った際、極端にいうと気合や根性などのメンタリティーに関するコメントが一定割合確認できると予想していました。しかし、どの起業家からもそれらのコメントが確認されることはなく、結果として「何をしたか? 何ができたか?」という行動に関するコメントが集まり、上記の項目が導出されました。
どれも真新しい項目はなく、至極当たり前のことばかりです。一方で、死の谷を克服した起業家は、この当たり前のことを忠実に遂行していることになります。もしこの記事を読んでいるあなたが起業家だった場合、上記の項目を全て確認していると言えるでしょうか。この研究を行う中で、私自身も起業家の一人として、改めて振り返ることができました。起業家に限らず、ビジネスパーソンにおいても自分がいま取り組んでいる事業を成長させる上で少しでも参考になれば幸いです。
※本文にある筆者の研究は、論文誌「Review of Integrative Business and Economics Research, Vol. 8 (2019), Issue s3」にて掲載された研究成果(※5)を日本語に和訳および一部書き換えたものです。
REFERENCES
(※1)東京商工リサーチ (2018), 業暦別 企業倒産件数構成比推移
(※2)一般財団法人ベンチャーエンタープライズセンター (2017), ベンチャー白書2017
(※3)総務省 (2007), 平成19年版 情報通信白書
(※4)Kobayashi, N., Nakamoto, A., Kawase, M., Fiona, S., Shirasaka, S.(2017)“What Model(s) of Assurance Cases Will Increase the Feasibility of Accomplishing Both Vision and Strategy?”, Review of Integrative Business and Economics Research, Vol. 7, Issue 2, pp. 1-17.
(※5)Kogure, Y., Kobayashi, N., Kawase, M., Shirasaka, S., Ioki, M. (2019) “Proposal of behavior process of entrepreneurs to support overcoming "Japanese type death valley" lurking in the growth process of venture companies”, Review of Integrative Business and Economics Research, Vol. 8, Supplementary Issue 3, pp. 1-19.
連載:リユースと学術と起業家な僕
過去記事はこちら>>