人の「直感」を使い万人の利益を導く、群知能「スワームAI」とは

ルイス・B・ローゼンバーグ

格差や分断、気候変動。世界には複雑な課題が山積みだ。ARを発明した科学者がその解決策として打ち出したのは、人の「直感」や「経験」を取り込んだAIだった。


「人助けするために、どんな慈善活動に資産を使ったらいいか、ツイートで提案してほしい」

1310億ドル(約14兆2000億円)の資産を抱えるアマゾン創業者ジェフ・ベゾスはある時、ツイッターでフォロワーにそう問いかけた。

その問いかけに対し、最善の使い方を導き出した人工知能(AI)がある。“スワームAI”と呼ばれるAIだ。2018年に創造的な技術を持つ新興企業のイベントSXSWインタラクティブのイノベーション・アワードや、19年に米国中西部の起業家支援活動を行うシカゴ・イノベーションが主催する賞を受賞し、今、アメリカで注目されている発明家で連続起業家のルイス・B・ローゼンバーグが開発した。

スワームAIは既存のAIとは全く異なる。そこに、人が介在しているからだ。既存のAIはインプットされたビッグデータをベースにアルゴリズムが予測や判断を行う。一方、スワームAIには複数の人々が参加。参加者の直感や経験、見識を取り込んだAIが予測や判断を行い、最善の解決法を導き出す。いわば、人知を結集することでパワーアップされた「コレクティブ・インテリジェンス」だ。

ローゼンバーグは一般のアメリカ人たちが参加したスワームAIに、ベゾスのフォロワーたちが寄せた多数の提案から“ベストワン”を選び出させた。

それはクリーン・ウォーター、きれいな飲み水だった。

「意外な結論でした。提案された使い方には、医療の無料化や医薬品の低価格化、税金の低減などアメリカ国民が求めているものが数多くあったにもかかわらず、世界のために、すでに彼らが享受しているクリーン・ウォーターに使うのが最善だという結論に至ったからです。人は個人となると自分にとって有益な使い方を考えますが、スワームとなるとモラルを基盤に、全体にとって最も有益となる使い方を重視することがわかりました」。参加者は匿名で、力関係はもちろんない。現在進行形の目に見える形で意思を磁石のように引き合って、ひとつの合意点に到達する。「つまり、スワームAIは人をセルフレスにすることで最善の使い方を導き出すのです」。

個人の利益よりも万人の利益を優先する結論を導き出したスワームAI。ローゼンバーグはスワームAIが民主社会に貢献する可能性を見出した。

現在、米カリフォルニアで「スワームAI」のソフトウェアを開発・運営するユナニマス AI(「全員一致のAI」の意)というスタートアップのCEOを務めるローゼンバーグ。その開発の裏には、彼が30年来抱き続けてきた既存のAIに対する「危機意識」がある。

スタンフォード大学の博士課程に在籍していた1990年代、ロボティクス、バーチャル・リアリティ(VR)、人間とコンピューターの相互作用を研究していた。その学生時代に開発した史上初の拡張現実(AR)システムは92年に米空軍で導入、実用化され注目された。
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文=飯塚真紀子 写真=ティー・ヘム・クロック 構成=岩坪文子

この記事は 「Forbes JAPAN 社会課題に挑む50の「切り札」」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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