人の「直感」を使い万人の利益を導く、群知能「スワームAI」とは

ルイス・B・ローゼンバーグ


「人間のパフォーマンスを本当の意味で増強するテクノロジーとは何か、ということをずっと専門としてきました」。現在、ローゼンバーグはサンフランシスコから車で約4時間の海辺の街、サン・ルイス・オビスポの牧場兼自宅で家族と暮らす。牛や羊、鶏が自由におのおの鳴き声をあげるのどかな雰囲気の庭の一角でローゼンバーグは語る。

93年にVR企業イマージョンを起業、99年には同社をナスダックに上場。また、他にも2社起業し、アニメーター用に開発したCG技術のマイクロスクライブ3Dデジタイザーは『シュレック』『アイスエイジ』『タイタニック』などの映画に利用され(09年に買収)、人間とコンピュータの進歩的な相互関係を専門としたアウトランド・リサーチ社は12年にグーグルに買収された。

発明家、起業家として第一線の輝かしいキャリアを歩む一方、ローゼンバーグはテクノロジーが人間を「支配」する未来に危機感を抱いてきた。「その危機意識を世の中の人に知ってもらおうと、何冊かSF小説や脚本を書きました」。

高度なネットワークでつながれた社会で人間が疎外されていく『UPGRADE』を12年に、世界の数百万人のユーザーがタブレットや携帯でつながることによって世界に意識を持ったAI「ハイブ・マインド」が出現してしまうディストピア小説『MONKEY ROOM』というグラフィックノベルを14年に発表する。

歴史の例を見ても、人間は集団になることによって愚かな方向に向かってしまう、と思っていたローゼンバーグだが、2作目の創作途中、あるひらめきが訪れた。

──なぜ蜂や鳥、魚、蟻の群れは、集団で行動することによって、最適な棲み処を見つけたり、外敵から身を守ったり、生存にとって最良の判断をしているのだろう──ということだ。

ひとつの巣には約1万匹のミツバチが棲んでいるといわれる。彼らはある使命を負っている。新しい棲み処を探す、という使命だ。昼夜の気温差や寒い冬、暑い夏を乗り越えられ、雨を避け、なおかつきれいな水場に近く、もちろん花粉にもリーチしやすい……。さまざまに複雑な制限をクリアするために、砂の粒よりも小さいミツバチの脳は、どのようにして新しい棲み処を決めているのだろうか。調べて驚いた。まず、何百という個別のハチが1500km四方に及ぶエリアに飛んで情報を集め、専門家が「ワグル・ダンス」と呼ぶ羽根を震わせる振動で情報を伝達する。そして多くの候補地の中から集団全体にとって最良の地を、シグナルで押し引きをしながら全員で決める。

「彼らは何百年も前から、ひとつの巨大な群れ、すなわちスワームとなって、棲み処を賢く決めてきました。同じように人もつながってスワームになれば、個人で決断するよりも、より賢い決断ができるのではないか。そう思い、スワームAIの開発をはじめたのです」

大統領選、オスカー受賞者を的中

14年にユナニマスAIを起業。16年にはメディアからの挑戦を受け、スワームAIはケンタッキー・ダービーの優勝馬、スーパーボウルの勝者、ドナルド・トランプの大統領選勝利などを予測し、的中させたことで大きな注目を浴びた。
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文=飯塚真紀子 写真=ティー・ヘム・クロック 構成=岩坪文子

この記事は 「Forbes JAPAN 社会課題に挑む50の「切り札」」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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