また、同年オスカーの各部門でどの映画がアカデミー賞を受賞するか、普通の映画ファンたちに参加してもらったスワームAIで予測させ、94%的中させた。「普通の映画ファンたちが人知を合わせて生まれた“AI映画評論家”が、ニューヨーク・タイムズなどの主要新聞や映画専門誌のプロの評論家の予測を凌駕したのです」とローゼンバーグは誇らしげに振り返る。
スワームAIは、実際、どのように判断し、予測を行っているのか?
参加者数は予測や判断するテーマにより、4〜5人という少数のこともあれば500人という多数のこともある。また、テーマにより専門家が参加することもあれば、一般の人々が参加することもある。専門性の高いテーマの場合は、少数の専門家が参加し判断を行っている。
例えば、アカデミー主演男優賞の場合、55人の映画ファンがネットでスワームにログインした。スクリーンには候補者名が書かれた六角形が登場。55人はタッチスクリーンやマウスを使って、スクリーン上に現れたマグネットを受賞すると予測している男優の方向に操作。その結果、レオナルド・ディカプリオの方向にマグネットが動き、予測通り、同氏が受賞した。
しかし、55人の映画ファンといっても、彼らの中には候補者が出演した候補作品を全て観ていた人は1人もいなかった。実際、その半数も観ていない人が多数だった。では、どうやって、的確な予測を得たのか?
キーワードは“確信”にある。
「スワームAIは、予測対象に対して、参加者たちの確信の強弱に基づき、どこにスワームが動くべきか判断し、予測を行うのです」
参加者たちの確信の度合いはマグネットの動きでAIが判断する。例えば、マグネットを動かすのに時間を要したり、あちこちにマグネットを動かしたりしている場合は、参加者が確信を持てないため迷っている証拠だ。しかし、確信の持てる参加者がためらうことなく即座にある方向にマグネットを動かせば、全体として、その方向に判断は向かうことになる。
また、スワームAIでは参加者の匿名性も重要になる。
「各人匿名で参加できるため、組織にあるような上下関係やポリティクスに左右されず、参加者は平等な立場から率直な考えを表明できるのです」
現在スワームAIは、ビジネスや医療、政治、金融、広告などさまざまな業界で活用されている。デロイト、ボーイング、クレディ・スイスなどの大企業も利用し、今年3月には、ビジネスチーム向けのソフトウェア・プラットフォームとして世界で初めてSaaSとしてプロダクト化された。
しかし、ビジネスとともに、今後、スワームAIの貢献が期待されるのは医療や政治など人の生活に直接かかわる領域だ。
医療では、スワームAIは世界の優れたAIよりもより正確に病気の診断を行うことに成功している。スクリーン上に映し出した患者のX線写真を、スタンフォード大学医学部の6名の放射線専門医に参加してもらったスワームAIと、世界で高く評価されているAIにそれぞれ診断させたところ、スワームAIの方が30%診断ミスが少なかったのだ。