人生で本当になすべきことは何か。自分に問い続けた「空白の100日」|紫舟 #30UNDER30

書家 紫舟


「道」の心は、一筆書きの美学にあり 

「合気道」にも「書道」にも共通する「道」には、日本人の価値観や文化が刻まれているのではないでしょうか。たとえば中国や韓国にも書がありますが、「書芸」と呼び「道」はつかないのが普通です。

書が大陸から日本に伝わったのは弥生時代のこと。そこから現在まで1400年以上もの間に、先人が何度もやり方を精査しながら伝承し、「書道」という日本の文化として定着しました。

これまで、私自身がアメリカやフランス、イタリアなどで作品を発表しながら感じてきたことがあります。それは、まだまだ海外に書の本質が伝わっていないということ。なぜならば、日本人が自国の文化を語るということを、ほとんどしてこなかったからです。

ヨーロッパの人々は、書を「Black And White」と呼び、アートとして支持してくれているのも事実ですが、浮世絵の色の繊細さなどと同じようなレベルで、書の本質的な価値観が広く認められているかというと、そうとは言えないでしょう。

なぜなら、書は「一筆で書くもの」だから。ヨーロッパでは、油絵のように、何度も色や線を重ねた結果としてできたものをアートと捉え、大事にしようとする文化がある。でも、書は二度書き禁止で、必ず一筆で書かないといけない。ヨーロッパの人々からすると、なぜ一筆でないといけないのか不思議なのでしょう。

しかし私は、この一筆書きの美学にこそ、日本人の「道」を重んずる心が現れていると思います。結果だけではなく、そこにたどり着く道を大事にするのが日本の文化です。答えも結果も大事ではあるけれど、そこに至るまでの「道」のなかにこそ学びがあるのだと、「書道」や「合気道」は教えてくれているのです。

いまはまだ、自分のやりたいことや、なすべきことがわからない、という方も多いかもしれません。そういう方は、ぜひ、自分にとことん問い続けてみてください。今振り返ってみると、私も20代半ばで自問を続けたあの100日間があったからこそ、いまがあると思えます。ただ、本当に孤独で、苦しい時間だったので、もうやりたくはないですけれどね(笑)。


ししゅう ◎ 6歳で書を始め、2001年に書家としてデビュー。主な作品に、NHK大河ドラマ「龍馬伝」題字、伊勢神宮「祝御遷宮」などがある。14年、フランス国民美術協会展にて書画と書の彫刻で金賞と審査員賞金賞をダブル受賞。イタリア、スイス、アメリカなどでの実績も多数。17年の『紫舟』展には、当時の天皇皇后両陛下も行幸啓された。世界へ日本の文化や思想を発信し、書の領域を超えた現代アートと評されている。9月21日から10月20日まで、J-POPのラブソングから珠玉のフレーズを集め、歌詞の世界観をアートで表現した作品展「Feel Love Project」が日本橋二号館を開催予定。


紫舟が「DOU部門」のアドバイザリーボードとして参加した「30 UNDER 30 JAPAN 2019」の受賞者は、8月23日に特設サイト上で発表。世界を変える30歳未満30人の日本人のインタビューを随時公開する。

昨年受賞者、「スーパーオーガニズム」でボーカルをつとめる野口オロノや、昨年7月にヤフーへの連結子会社化を発表した、レシビ動画「クラシル」を運営するdelyの代表取締役・堀江裕介に続くのは誰だ──。

文=吉田彩乃 写真=小田駿一

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