「全米球場跡地巡り」に感じるロマン

グリフィス・スタジアムに訪れたフランクリン・D・ルーズベルト大統領、1917年/GETTY IMAGES

政府機関や博物館などが集まるワシントンDCの中心部から北東約3キロにハワード大学病院がある。病院がある場所には、ワシントン・セネターズが本拠地としていたグリフィス・スタジアムがかつてあった。1911年の開場当時は内野部分にしか二階席がなかったが、1920年に二階席を両翼まで拡張した。既存の内野の客席の傾斜よりも、増設部分の傾斜の方が急だったため、増設された二階席の屋根は、内野部分の屋根よりも15フィートも高く凸凹ができてしまった。

この球場のセンターのフェンスはフィールド側にジグザグ状に入り込んでいた。これは、その場所にあった5軒の民家の所有者が土地の売却を拒んだことと、民家の裏庭に大きな木があったためだ。その民家の裏庭に、ベーブ・ルースが本塁打を打ち込んだことがあるという。

ベーブ・ルースは、「球場の形に合わせて本塁打を打ち込むのが打者の楽しみ」と語り、ルー・ゲーリッグは日本の左右均一球場に対して、「野球の面白味が失われる。本拠地球場の形に応じて、実力を発揮するのが野球の醍醐味だ」とケチをつけたという。また、ニューヨーク・タイムズのスポーツ記者のレッド・スミスは、こんな言葉を残している。「野球がスローで退屈と思う人、それはその人が退屈な心の持ち主にすぎないからだ」


グリフィス・スタジアムのセンターのフェンスはフィールド側にジグザグ状に入り込んでいた。著者撮影。

野球の魅力については、これまで多くの作家、記者、評論家、解説者、野球選手たちが熱く語ってきたが、その中でも、僕が最も魅力を感じるのは、野球が空間や時間に制限がなく、自然と一体化した牧歌的なスポーツであるところだ。

草創期、野球場は、野原や空き地などの地形の一定しないところに作られ、19世紀後半になって漸くフェンスが設置されるようになった。住宅街の中にも野球場ができた。こうした自然や周囲の環境と密に結びついた名残として、歪な形をした左右不均衡の球場が誕生した。度重なる洪水によってフィールドが傾いてしまったり、狭い球場では、場外弾が周辺の窓ガラスを割らないように、あるいは住居の屋上から無料観戦させないために工夫した結果、大きなネットやフェンスが設置された。二階席や屋根を支えるための鉄柱によって、フィールドの視界を遮ってしまう客席ができた。

改築・増築を重ねた結果、とても妙な見栄えになった球場もある。しかし、この自然と一体化した環境、人間臭さ、不器用さなどが球場を人を引き寄せる場所にしているのだと思う。左右不均衡で不格好な球場こそ、個性があって愛らしいと思えてならない。

文=香里幸広

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