中国のSF小説「三体」が大ヒット その「妄想力」がとにかく凄い

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まずタイトルの「三体」だが、これは天体力学の「三体問題」から来ている。

三つの天体が万有引力をどう相互作用させながら運動するかという問題で、運動の軌道を導き出す一般解は存在しないとされる。本書の基本設定は、もしもそんな三つの天体を太陽として持つ惑星があったら? というアイデアをベースにしている(三つ太陽がある世界がこれほど過酷とは!)。

もうひとつ、汪淼と理論物理学者の対話の中で出てくるパイプの話も紹介しておこう。喫煙具のパイプのフィルターは、小さな紙筒の中に極小の活性炭の粒が詰められているが、それぞれの内部には微細な孔が空いているために吸着面積が広くなっている。これをぜんぶあわせれば、テニスコート一面ほどの広さになるという。炭粒は三次元構造だが、広げた吸着面は二次元だ。つまりこれは、ひとつのちっぽけな高次元の構造の中に、大きな低次元の構造を包含できるということである。

私たちの目には、宇宙には三つの空間的次元と、時間の次元ひとつしかないように見える。だが本当にそうだろうか? もしかするとものすごく小さなものの中に、高次元のものが詰まっている可能性だってある。もしそのようなミクロ・スケールで次元を制御したり操作したりできる技術文明があったとしたら……?

劉慈欣の世界的な成功によって、中国政府もSFを後押しするようになった。SFは子供の想像力や理系の能力を伸ばすとされ、いまや教科書にもSF作品が載り、授業でも活用されているという。劉慈欣も科学技術プロジェクトのイメージ大使である「火星大使」に任命されるなど、国家のアイコンになっている。

その背景にあるのは発展著しい中国の科学力だろう。習近平は2025年までにハイテク製品のキー・パーツを自給自足できるようにする「中国製造2025」を国家戦略に据えているが、この中には、有人宇宙飛行や月面探査、独自の宇宙ステーションの稼働なども盛り込まれている。習近平体制のスローガンである「一帯一路」は、いまや空と宇宙を含めた「一帯一路一空一天」へと発展しようとしているのだ。

科学立国で世界最強を目指す中国。その現在と未来が知りたければ、なにをおいてもこの世界最先端のSF小説を読まなければならない。中国の妄想力は、私たちの想像の遥か先を行っていることがわかるだろう。

連載:本は自己投資!
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文=首藤淳哉

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